JAXA,新方式の宇宙重力波検出器を実験的に実証

著者: sugi

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は,新方式の宇宙重力波検出器を初めて実験的に実証することに成功した(ニュースリリース)。

重力波の検出において,地上の検出機では観測が困難な10Hz程度よりも低い周波数帯を観測するため,宇宙で検出器を構築することが計画されている。重力波の検出は光共振器による検出器が高い感度を実現できるが,観測中は共振を維持する必要があり,各宇宙機が備える鏡間の距離(共振器長)をナノメートルレベルで超精密に制御することが必要だった。

そこで別方向からのアプローチとして近年,back-linked Fabry–Pérot interferometer(BLFPI)と呼ばれる方式が提案されている。この方式では1つの衛星に2つのレーザーを搭載する。この時,各レーザーの周波数は各共振器の長さから決まる共振周波数に追従するように制御され,レーザー周波数に共振器長の情報がコピーされている。

ここで,それら両側に送られるレーザーを干渉させ“うなり”を取ることでそれらレーザー周波数の差分,つまり2つの共振器長の差動変動成分を取得することができる。この共振器の裏でうなりを取る部分をback-linkと呼ぶ。重力波は2つの共振器長に対し片側を伸ばし,もう片側を縮めるように作用するため,このうなりから重力波信号を取得することができる。

BLFPIの1番の利点は従来法で必須だった超精密な共振器長制御が不要になることだが,加えて共振器長を一定に保つ必要がないため,運用中の自由な共振器長の伸び縮みも許容される。これは軌道に応じて変化する衛星間距離の制御に対する要求が緩和され推進剤の節約に繋がり,長時間観測に貢献する可能性もある。

一方,BLFPIはレーザーの周波数揺らぎ(雑音)による感度の悪化という課題が存在する。この解決のため取得した信号から事後的に周波数雑音を“引き算”することが理論提案されていたが,これまで実験的に実証されてはいなかった。

研究は,実験室中でBLFPIを構築し周波数雑音の引き算を実証した。雑音を最大で約1/200に低減すると共に,雑音低減率を制限する要因の分析を行ない,今後のさらなる雑音低減に向けた道筋を立てた。これはBLFPIにおいて高感度の達成に不可欠な雑音引き算機能を実験的に検証した世界初の結果だという。

この結果はBLFPI方式実用化に向けた重要なマイルストーンであり,光共振器型宇宙検出器の開発に新たな技術的多様性をもたらすもの。研究グループは将来,日本が0.1Hz帯重力波の高感度観測を主導することにもつながり得る結果だとしている。

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