京都大学,米Johns Hopkins大学,デンマークNiels Bohr研究所は,小さな外的環境で乱れた準固有振動の集合を取り扱うことで,テイル重力波を含む重力波波形を再構成できることを明らかにした(ニュースリリース)。
振動するブラックホールは固有の特徴的な周波数や減衰率(準固有振動)を持つ重力波を放射する。特にブラックホール振動によって発せられる減衰重力波をリングダウン重力波という。ブラックホール分光法とは,このリングダウン重力波を測定・準固有振動を抽出することで,その波源であるブラックホールの性質を読み解こうとする手法。
しかし,実際のブラックホール振動からの重力波信号は,その自由振動だけでは説明できない複雑さを持つ。たとえば,重力の長距離的な性質により,準固有モードでは記述しきれない「テイル重力波」と呼ばれるゆっくりと減衰する成分が生じる。つまり,準固有モードだけでは波形全体を精細には捉えられない。
さらに,準固有モードのスペクトル構造は,わずかな外的環境の変化に敏感であることも問題視されてきた。ブラックホールを楽器にたとえた場合,楽器を部屋の中に置いて環境を変えると,その楽器から発せられた音波は壁で反射して「こだま」のように響くことがある。これらは,ブラックホール分光法の有用さを問う問題となっている。
今回研究グループは,この課題を逆手に取り「小さな外的環境によって乱れた準固有振動」の集合が,標準的な準固有振動の集合よりも優れた重力波信号の構成要素となり得ることを示した。
第一原理的に各々の乱れた準固有振動の振幅を理論計算し,乱れた準固有振動をその振幅で重ね合わせていくと,標準的な準固有振動では捉えられないはずの波形成分(テイル重力波など)も含めて,元々の波形がより高い精度で再構成されることを発見した。
この仕組みは,楽器の音が室内で奏でられた際に生じる反響音は,楽器内部(ブラックホール近傍の時空構造)だけでなく,室内の大域的な構造(重力の長距離的な効果)に関する情報も含み得ることに例えられるという。
この発見により,実は乱れた準固有振動が,ブラックホール周りの大域的な時空構造など豊かな情報を有することが明らかとなり,重力波波形モデルへの応用にも有用であることが示唆された。
研究グループは,ブラックホール分光法の堅牢さを示しただけでなく,さらに高精度なリングダウン波形モデルの構築や重力波データ解析の精度向上に向けた新たな道が切り開かれることが期待される成果だとしている。
