東邦大,光遺伝学で周波数選択的な細胞応答に知見

東邦大学の研究グループは,生命現象を光で操作するオプトジェネティクス(光遺伝学)技術を駆使して,細胞内で周期的に発生する化学信号の周波数が,転写因子を介した遺伝子発現制御やその後の細胞運命決定プロセスをどのように制御するかを実証した(ニュースリリース)。

細胞は,刻一刻と変化する環境に適応し,精密な意思決定を行なう必要がある。そのため,細胞内ではシグナル分子や遺伝子発現に周期的なリズムが観察されることがある。例えば,心筋細胞はカルシウム濃度の変化をきっかけに収縮し,正常な心拍リズムを生み出す。

また,脳の神経細胞集団は24時間周期で遺伝子発現を制御し,体内リズムを調整する概日時計の中枢として機能している。このように,柔軟かつ安定的な周期リズムは,細胞にとって恒常性維持のための普遍的な信号情報となる。最近では,単細胞生物の生存戦略においても周期リズムが遺伝子発現や分化のタイミングを効果的に調節するしくみが明らかになりつつある。

細胞性粘菌(Dictyostelium discoideum)は,環境中の栄養源が枯渇すると単細胞アメーバから多細胞集団へと移行するユニークな生物として知られている。この細胞集合プロセスでは,周期的に濃度変化するcAMP信号が細胞間コミュニケーションを担い,中心的な役割を果たす。

先行研究では,細胞集合の進行に伴いcAMP信号の周期が10分から3分に短縮することが示されている。しかし,従来の技術ではcAMP信号を観察しながら,人為的に周波数変調を引き起こすことが困難であったため,リズム情報が細胞の意思決定にどのように影響を与えるのか,明確に実証できなかった。

今回の研究では,光刺激でcAMPを制御可能なオプトジェネティクス技術を使用し,細胞性粘菌のcAMP信号の周波数を操作しつつ,顕微鏡下で細胞や分子の挙動を同時にモニタリングすることに成功した。

その結果,cAMP信号が6分周期よりも4分周期で細胞集合の効率が向上することを見出した。一方で,cAMP信号を遺伝子発現へと変換する転写因子GtaCの応答は,6分周期から4分周期への変調で低下することが分かった。これらの結果は,cAMP信号のリズム変調が,細胞・分子レベルの「周波数フィルター」のような機能によって情報処理されることを実証しているという。

研究グループは,この成果は,発生生物学の分野で周波数選択的な細胞応答の重要性を示し,細胞間のシグナル伝達に新たな視点を与えるものだとしている。

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