玉川大,太平洋横断級の量子暗号通信に成功

玉川大学は,位相変調方式のY-00光通信量子暗号(Y-00暗号)を用いて,10,000kmを超える安全な光ファイバ通信が実現できることを実証した(ニューリリース)。

Y-00暗号では,データ(平文)を暗号鍵を用いて多くの異なる光強度/位相をもつ光信号(暗号)に変換する。隣接する光信号間の距離が極めて短くなると,受信時の光・電気変換で必ず生じる量子雑音の影響で,鍵をもたない受信者は平文を正確に復元することができない。

これまで,Y-00暗号を用いて,光ファイバ伝送距離1,000kmの暗号化通信に成功している。しかし,日米を結ぶ光海底ケーブルは約10,000kmであることから,さらなる伝送距離の延長が期待されてきた。

研究グループは,データと暗号鍵をY-00暗号生成部に入力し多値信号への変換を行ない,波長1550nmのレーザー光の位相を変調してY-00暗号を発生した。IQ変調器によるデータ変調後に粗密光位相ランダマイズ法にて暗号化を行なった。

粗密光位相ランダマイズ法は,二つの位相変調器を同期して駆動することで単体の電気デジタル・アナログ変換の分解能を超える極めて多値の光位相のランダマイズを可能とする。

暗号化後の光信号は218値の位相レベルを持つ。偏波多重化を行った後のデータレートは40Gb/sで,長距離光ファイバ伝送は光周回伝送システムを用いて行なった。受信側では,フリーランニングのレーザーを局発光として用いるイントラダインコヒーレント受信を行なった。デジタル化後に,暗号の復号化を統合したデジタル信号処理にてデータを復調した。

実験では,伝送距離10,118kmにおいて,Q値は軟判定誤り訂正符号閾値を超えており,適切な信号品質を確保した。受信信号のコンスタレーションからは,暗号の復号化によりQPSKデータ変調が回復する様子が確認できた。

粗密光位相ランダマイズ法により実現される218値の位相レベルをもつY-00暗号では,量子雑音が隣接する約230の信号を覆う。これにより盗聴者が暗号を受信しようとしたときのシンボル誤り率は0.9965以上と極めて大きくなり,盗聴に対する高い安全性を実現した。

研究グループは今後,さらなる高速化や波長多重技術を用いた大容量化を行ない,Y-00暗号の光ファイバ通信システムでの実用化に向けて研究開発を進めていくとしている。

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