九大ら,X線で抗癌剤の腫瘍内分布を可視化

九州大学,高輝度光科学研究センター,徳島大学の研究グループは,SPring-8の強力なX線を臨床医学に応用し,世界で初めて抗癌剤(Oxaliplatin)投与後のヒト大腸癌組織内における白金分布を蛍光X線マッピングにより可視化した(ニュースリリース)。

大腸癌治療における主要薬剤の1つ「オキサリプラチン」(L-OHP)は,第三世代白金錯体系抗悪性腫瘍薬。一方で,進行再発大腸癌に対するFOLFOX療法の奏効率は50%程度で,L-OHPの使用により好中球減少症のほか,高頻度の末梢神経障害などの副作用があり,治療継続を困難にする要因にもなっている。有効性と安全性の高い化学療法を実現するためにも,治療効果を予測・診断する手法の確立が望まれている。

腫瘍組織におけるL-OHPの局所分布を明らかにすることは,薬剤の腫瘍内動態や耐性誘導メカニズムを解明する上でとても重要となる。そこで研究グループは,放射光蛍光X線(SR-XRF)分析に注目した。高輝度かつ空間分解能が高いSR-XRF分析をヒトの腫瘍組織に応用し,抗腫瘍薬に含まれる白金および生体内必須金属の組織内分布を定量・可視化することを試みるとともに,化学療法の治療効果や臨床病理学的因子との関連性を検討した。

分析対象は,L-OHPを含む術前化学療法後に手術を施行した直腸癌30例とした。SR-XRF分析に際し,直腸癌の切除標本に対して細胞転写法を用いることでスライドガラス中の微量元素や厚さに影響されることのない測定用標本を作製した。SR-XRF分析は,大型放射光施設SPring-8において14.5keVの入射X線(ビームサイズ0.5µm)を用いて行なった。

直腸癌切除組織に対するSR-XRF分析の結果,腫瘍上皮では化学療法の治療効果に応じた変性部位で白金の集積濃度が有意に高く,一方,腫瘍間質では治療効果の乏しい症例ほど集積濃度が高いことが明らかとなった。

さらに,多変量解析において,間質における白金集積が組織学的治療効果に対する独立した予測因子であることがわかった。また,主成分分析では,化学療法の有効例と無効例の間には銅の分布傾向に差が生じ,銅輸送体が薬剤抵抗性に寄与していることが示唆された。

研究グループは,今回の研究結果は腫瘍間質における白金の集積が直腸癌における治療効果と関連していることを示し,SR-XRF分析を臨床医学と結び付けることで,白金錯体系抗腫瘍薬の治療効果予測や治療抵抗性の機序の解明が進むことが期待できるとしている。

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