東工大ら,世界一の構造秩序のガラスを合成・解析

東京工業大学,京都大学,物質・材料研究機構らの研究グループは,世界一構造秩序のある永久高密度シリカ(SiO2)ガラスの合成に成功し,その構造を大型放射光施設SPring-8をはじめとする量子ビーム施設を横断的に利用して明らかにした(ニュースリリース)。

ガラスは原料を加熱して得た液体を急速に冷却(急冷)することで得られる。物質は加熱されて液体になった時,その構造は結晶のように規則正しく配列していないことが知られているが,ガラスは液体の構造をそのまま凍結した固体であるため,原子配列の規則性を失っている。そして,ガラスは作製時の急冷速度やその後の処理温度,圧力の印加によって原子配列の変化に伴った機能の修飾ができる。

ガラスを加熱すると結晶化するが,この結晶化を抑制しつつ高い構造秩序を有したガラスを合成することは,材料開発の新しい基軸となると考えられてきた。しかし,ガラスの乱れた構造を定量的に評価することはこれまで非常に困難であり,それゆえ,その構造制御による新規材料開発は立ち遅れていた。

今回,研究グループは大型放射光施設SPring-8のBL04B2および海外の中性子施設を横断的に利用した量子ビーム実験から,1,200 ℃かつ7.7 GPa(約7.7万気圧)において温度と圧力を精密に制御して合成したシリカ(SiO2)ガラスに,現在までに報告されているガラスの中で最も間隔が揃った原子配列,すなわち世界一の構造秩序があることを発見した。

さらに,室温で圧力のみを印加して同じ密度のガラスを作ったところ,この低温圧縮ガラスには構造秩序がないことも確認した。また,中性子非弾性散乱と比熱測定によって2つのガラスの原子の動きを測定したところ,ガラス特有の低エネルギー励起とされるボゾンピークが構造秩序によって大きく影響を受け,ボゾンピークが密度だけではなく構造によっても変化することを明らかにした。

さらに,世界一構造秩序のあるSiO2ガラスが形成するリング構造は,室温での圧縮で得られた同じ密度を持つSiO2ガラスと比べてより変形しているものの,Si原子同士がより規則正しく並んでいることを明らかにし,これが世界一の構造秩序の理由であることが分かった。今回開発した解析手法によって,ガラスのような一見無秩序に見える構造の中に潜んだ秩序を見出すことが,初めて可能となった。

今回得られた知見により,温度と圧力を駆使した構造制御によるガラスやガラスセラミックスを創製できる道が切り拓かれたことから,新規高屈折率ガラスや高強度ガラス,高性能光ファイバーの合成への応用が期待されるとしている。

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