薄明光線って言えますか?

夕方になって西から急に暗い雲がのしかかってきた。随分と不吉な空模様だと思っていたが,不意に西側の雲の隙間から太陽の光が突き差してきて,モノトーンになっていた景色の中に高速道路だけをカラーで際立たせる。年のうちに何度も見ない不思議な景色だ。

ちょうど仕事が終わる時間で,外に出てみたら雪雲がかかった西の山間から空を左方向に向かってオレンジ色の光線が一筋伸びている。これも珍しい景色なので,いつも持ち歩いているコンパクトデジカメで写真を撮っていたら,会社の文系の知り合いが近づいてきて,「あの光って何ですか?」と聞いてきた。僕は「あれは薄明光線(ハクメイコウセン)と言って…」とスマートに答えたいところだったのだが,“薄明光線”という言葉が出てこない。

結局,「あれは雲間から空に差し込む光線ですねえ」と,見えているそのままの説明をしたものだから,彼は,(ふーん,光の専門家なんて言っているけど大したことないな)という顔だ。僕は若い頃から肝心な時に肝心な言葉をど忘れしてしまって,それを後から思い出してくよくよしてしまうのだけど,この時も,人に向かって初めて薄明光線という言葉を使えるチャンスだったのに…,と,なんだか残念な気持ちを引きずっていたのだった。

この続きをお読みになりたい方は
読者の方はログインしてください。読者でない方はこちらのフォームから登録を行ってください。

ログインフォーム
 ログイン状態を保持する  

    新規読者登録フォーム

    関連記事

    • 見ているものは何なのだろう

      著者:納谷昌之 関東では、冬晴れの日が続いている。僕の住む場所からは、青空の下、目の前に広がる丹沢の山並みや、遠く雪を被って鎮座する富士山の、くっきりとした風景を仰ぐことができる。ふと、この風景が、僕の目の中の網膜の上で…

      2026.03.23
    • 衣服で化ける

      僕が子どもの頃,世界にはまだ裸族がたくさん住んでいた。テレビでは,下唇を円盤で大きく広げたり,局部を木の筒に収めただけの姿で裸のまま躍動する人々の暮らしが,様々な番組で紹介されていた。今はどうだろう。先日,アマゾン奥地に…

      2026.02.17
    • 米とひかり

      米のトップブランドといえば「コシヒカリ」だろう。この名前は,越国(こしのくに)の光り輝く品種になって欲しい,という願いのもとに命名された。それ以外にも,米の品種名には「きぬひかり」「ひのひかり」など,「ひかり」の付くもの…

      2026.01.16
    • 鏡という秘境

      鏡は人類にとって最も身近な光学素子と言っても過言ではない。現存する最古の金属鏡は紀元前2800年頃のものらしい。そんな長い歴史を持ちながら,鏡はいまだに謎を秘めている。「鏡に映った自分の姿は左右が反転するのに,上下は反転…

      2025.12.11
    • AIみたい

      8 月のお盆明けに,北アルプスの白馬岳に登ってきた。今回辿った蓮華温泉からのコースは,後立山連峰の新潟側に連なる朝日岳や雪倉岳などの,たおやかな景色を横に眺めながら登る稜線歩きだ。ゆったりとした緑の峰々の,ところどころに…

      2025.11.10

    新着ニュース

    人気記事

    編集部おすすめ

    • オプトキャリア