無反射多層基板を用いた光学的精密計測

3. 極薄膜の観察

初めに,本手法の優位性を定量的に示す例として,無反射多層基板上に六方晶窒化ホウ素(hBN)の小さな結晶片を試料として観察した結果を紹介する。図2(a)は470 nmの光を利用し,商用のカラーカメラで撮影した写真を示す。hBNは窒素とホウ素からなる材料で,グラフェンと同様に面内では蜂の巣状の結晶構造を有するシート状の物質であり,垂直方向に積層されている(図2(b))。この結晶構造により,hBNはセロハンテープ等で機械的に剥離して薄くすることができ,剥離を繰り返したテープを基板に押し付けることで,基板上に小さな単層の結晶片(厚さ0.33 nm)が得られる(図2(c))。hBNの光学特性は,グラフェンとは異なり,可視光域において透明であるため,基板上のhBNの極薄膜は同厚のグラフェンと比べて認識が困難である。そのため,単層のhBNを簡便に可視化する方法はこれまで確立されていなかった。しかし,図2(a)に示すように,本手法を用いることで,画像処理を施していない生データ(JPEG画像)であっても,基板と単層hBNの色の違いが確認でき,透明な単原子膜を認識できる。さらに,モノクロカメラを用いた詳細な分析により,仮想的に厚さ0.05 nmの透明なシートや段差が基板表面に存在する場合でも検出可能であり,本手法が極めて高い垂直分解能を有していることが示された4)。この分解能は,既存の白色干渉顕微鏡やレーザー顕微鏡と同等以上の感度を有し,原子1個分の高さの変化を容易に検出できることを意味する。

図2 (a)hBNの極薄膜の光学顕微鏡像。(b)hBNの結晶構造。(c)試料断面図の模式図。
図2 (a)hBNの極薄膜の光学顕微鏡像。(b)hBNの結晶構造。(c)試料断面図の模式図。

無反射多層基板に関して,図2(a)ではSiO2(25 nm)/SiNx(50 nm)/Siの構造の基板を利用したが,Au/Cr/SiO2/Si構造など,異なる材料を用いた多層構造においても原子レベルの精密測定が可能であることが確認された2, 5, 6)。これにより,本手法は多層構造に対して汎用性を持ち,一般的な表面分析法としての応用が期待でき,ボトムアップ型のナノ構造構築技術の評価に利用できる。例えば,図2で示した物理吸着により付着した極薄膜の可視化だけでなく,基板表面に化学結合して形成される有機単分子膜の観察にも適用可能である7, 8)。これらの膜は,表面改質や機能性ナノ材料として利用されるが,厚さが約1 nmであるため,従来の分析手法では可視化が困難であった。しかし,本手法を用いることで,容易にその存在を識別できる。

別の応用例として,図3に金薄膜表面の酸化還元反応を可視化した結果を示す。通常,金は常温・常圧下で安定であり,酸化しない安定な金属であるが,強い酸化力を持つガスに晒されると,表面に酸化膜を形成し,機能性材料として応用が可能となる。しかし,酸化膜の厚さは1 nm以下であり,不安定で室温でも還元が進むため,従来の手法ではその検出や分析が困難であった。

図3 (a)酸化金のパターニング法の模式図。(b)酸化金の光学顕微鏡像。
図3 (a)酸化金のパターニング法の模式図。(b)酸化金の光学顕微鏡像。

この課題に対し,金薄膜を最表面に持つ無反射多層基板を利用することで,酸化膜の可視化が可能となる6)図3(a)に示す模式図のように,Crのパターンを施した石英ガラスを無反射基板上に固定し,UVオゾン処理を行うことで,選択的に表面を酸化した。図3(b)は,形成された酸化膜のパターンを530 nmの光で観察し,モノクロカメラで撮影した画像である。明暗の違いにより酸化された場所が明らかに認識できる。この例は,表面の酸化還元反応を原子レベルで観測できることを示すものであり,基板表面の微細な凹凸の可視化だけでなく,汎用的な表面分析手法としての応用が期待できる。

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