近距離光通信向け高効率ポリマー光変調器

1. はじめに

近年,動画配信サービスやAIを用いたサービスなどの普及により,データセンターにおける通信トラフィックおよび消費電力の増加が大きな問題となっている。そのため,データセンターネットワーク向けの光通信デバイスの高性能化が求められている。電気光学(EO)ポリマー変調器はその高速性と低消費電力性から注目されており,長距離光通信向けの光変調器として研究開発が進められている。そのため,データセンターネットワークへの応用も期待されるが,これまでのEOポリマーは長距離光通信への応用に焦点を当てて開発されてきたため,データセンターネットワーク等の近距離光通信で用いられるOバンド帯(1260−1360 nm)の波長域に材料由来の吸収があることからデータセンタネットワークへの適用が困難であった。本稿では,Oバンド帯における吸収を抑制したEOポリマーを用いたシリコンプラットフォームベースの近距離光通信向け光変調器について紹介する。

2. Siプラットフォームを用いた電気光学ポリマー変調器

2.1 電気光学ポリマー変調器

電気光学(EO)ポリマー変調器は,EOポリマーが電場の作用を受けて配向し,導波路内に分極を生じさせること位相変調を引き起こす。電場が印加されるとポッケルス効果によって屈折率が変化し,導波路内の光の進行波に位相シフトを与える。このためマッハ・ツェンダー干渉計(MZI)の導波路構造を用いると,強度変調器として利用できる。EOポリマーの特徴である高速応答性については2000年代に入ると100 GHz以上の高周波数応答が報告され注目を集めた1)。そして,2014年にはシリコンとEOポリマーを組み合わせたシリコン−有機複合導波路(Silicon Organic Hybrid: SOH)変調器が報告された。このSOH変調器は1 mm未満のデバイス長,1 V以下の動作電圧,そして40 Gbits/sの伝送レートという従来の光変調器を大きく上回る性能を実現した2)。特に大幅な小型化を実現したSOH変調器は,従来のシリコンや無機材料を応用した変調器と比較して多くの利点があることから,EOポリマー変調器が大きく注目されるきっかけとなった。EOポリマー変調器における変調は,EOポリマー分子が電場によって配向することで誘起されるが,熱による分子配向の緩和はデバイス性能を劣化させる原因となる。この問題に対処するため,高いガラス転移温度を持つEOポリマーの開発が進められ,私たちの研究グループではこれまでに105℃で2000時間保持しても性能が低下しない熱安定性に優れたEOポリマー変調器を報告している3)

2.2 スロット導波路型光変調器
図1 スロット導波路型変調器の模式図
図1 スロット導波路型変調器の模式図

近年,注目されているEOポリマー変調器の1つにシリコンプラットフォームを用いたスロット導波路型光変調器がある。図1にスロット導波路型変調器の概要図を示す。2本のシリコン導波路が100−200 nmの隙間(スロット)を空けて並列になっており,伝播する光電場はこのスロットに強く閉じ込められる。図2にスロット導波路の電磁界シミュレーション結果を示すが,シミュレーション結果からスロットに光電場が強く閉じ込められていることがわかる。EOポリマー変調器では効率的な変調のために光電場をEOポリマー中に閉じ込めることが重要となるが,スロット導波路ではEOポリマーをスロットに充填することで容易に実現できる。また,シリコン導波路をリンドーピングすることでスロット導波路自体が電極としての役割も果たすため,電極間距離をスロット幅にまで縮小することができ,駆動電圧を大幅に低減することが可能となる。光変調器の半波長電圧(Vπ)は電極間距離に依存し,この距離が短いほど低い駆動電圧で動作可能となる。金属電極では,吸収損失の影響により電極間距離を数μm以上確保する必要があるが,スロット導波路の採用により電極間距離が従来デバイスの10分の1以下にできる。

図2 スロット導波路の電磁界シミュレーション結果
図2 スロット導波路の電磁界シミュレーション結果

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