長波長光応答性酸窒化物光触媒の製造と水分解反応への応用

図4  合成法の異なるGaN:ZnO のXRD パターン。(a)アンモニア熱窒化法,(b)Zn3N2 を出発原料とする真空封管法。比較のため,GaN 及びZnO のデータも示した。
図4  合成法の異なるGaN:ZnO のXRD パターン。(a)アンモニア熱窒化法,(b)Zn3N2 を出発原料とする真空封管法。比較のため,GaN 及びZnO のデータも示した。

この問題の克服に向け,筆者は固体窒素源かつ亜鉛源として窒化亜鉛(Zn3N2)やハロ窒化亜鉛(Zn2NX,Xはハロゲン)を用いてGaN:ZnOを合成するプロセスを発明した。一例を挙げると,酸化ガリウム(Ga2O3),Zn3N2,ヨウ化アンモニウム(ZnI2)の混合粉末を真空封入して1123 Kで10時間加熱し,その後に不純物を除くために大気焼成及び酸洗浄処理を行うとGaN:ZnOが得られる。図4 に試料のXRDパターンを示す。比較のため,Ga2O3 とZnOの混合粉末をアンモニア気流中で加熱窒化して合成した従来のGaN:ZnOの結果も示している。合成した試料は単相のウルツ鉱型の回折パターンを示した。また,固溶体であることからピーク角度から固溶組成を見積もることができるが,アンモニア熱窒化で合成した従来の試料に比べてピークがZnO側にあり,酸化亜鉛の含有量が大きくなっていることがわかる。実際にGaN:ZnO試料の全元素分析を行うと,窒素が不足することもなく,ほぼ化学量論的なバルク組成の固溶体が得られたことがわかった。

したがって,本手法は組成の制御性に優れる合成法であるといえる。図5 に同じ試料の拡散反射スペクトルを示す。真空封管法で合成した試料は吸収端波長が550 nm程度にあり,従来のアンモニア熱窒化で合成した場合に比べて長波長化した。得られたGaN:ZnOを活性化するために,後処理として短時間の窒化を行い,さらに反応活性点として機能する助触媒を担持した。これを水に懸濁して可視光を照射すると,時間の経過とともに水素と酸素がほぼ2:1 の化学量論比で発生したことから,調製したGaN:ZnOが可視光水分解反応に活性な光触媒として機能していることがわかった。さらに,出発原料の組成や助触媒の担持方法を工夫することで,水分解速度が3 倍以上向上することもわかってきており,最新の成果を日本化学会や触媒討論会などの各種学会・シンポジウムで継続して発表している。

図5  合成法の異なるGaN:ZnO の拡散反射スペクトル。(a)アンモニア熱窒化法,(b)Zn3N2 を出発原料とする真空封管法。比較のため,GaN 及びZnO のデータも示した。
図5  合成法の異なるGaN:ZnO の拡散反射スペクトル。(a)アンモニア熱窒化法,(b)Zn3N2 を出発原料とする真空封管法。比較のため,GaN 及びZnO のデータも示した。

真空封管中で窒化亜鉛を反応させる手法は類似した酸窒化物光触媒の合成に応用可能なことも確認されている。GaN:ZnOに類似した光触媒材料として,亜鉛ゲルマニウム窒化物(ZnGeN2)とZnOの固溶体(ZnGeN2:ZnO)があげられる12)。この材料を真空封管中で合成する際に,固体窒素源としてZn3N2 を用いた場合と,先行研究にならい塩化アンモニウムを用いた場合を比較すると,後者は反応中に水素が発生するために還元性の雰囲気となり,金属ゲルマニウムが不純物として相分離しやすいが,前者では不純物の量が少なくなることがわかっている。

図6  合成法の異なるZnGeN2:ZnOの拡散反射スペクトル。(a)アンモニア熱窒化法,(b)塩化アンモニウムを出発原料とする真空封管法,(c)Zn3N2 を出発原料とする真空封管法。
図6  合成法の異なるZnGeN2:ZnOの拡散反射スペクトル。(a)アンモニア熱窒化法,(b)塩化アンモニウムを出発原料とする真空封管法,(c)Zn3N2 を出発原料とする真空封管法。

また,拡散反射スペクトルを比較すると(図6),塩化アンモニウムを用いた場合には,金属ゲルマニウムに由来する金属的な光吸収がみられるのに対し,窒化亜鉛を用いる手法では不純物による吸収がほとんど見られなかった。また,従来のアンモニア熱窒化により合成した試料よりも長波長域に吸収端があることも確認された。調製したZnGeN2:ZnOは,先ほどと同じように助触媒を担持すると可視光水分解反応に活性を示した。一連の結果は,真空封管中でZn3N2 を固体窒素源として反応させることで,可視光水分解反応に活性な種々の長波長応答性酸窒化物固溶体粉末を調製できることを示している。

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