次世代ウェアラブルのための皮膚表面の光制御

3. 伸縮性透明デバイス

3.1 伸縮性タッチセンサ

図3 ロボットの上に貼り付けられた透明伸縮性タッチセンサ。
図3 ロボットの上に貼り付けられた透明伸縮性タッチセンサ。

開発した伸縮性透明電極を用いて、伸縮性透明タッチセンサを作製した。透明なセンサは、その上下にディスプレイ素子を集積できる他、人体に貼り付けた際の見た目をそれほど変えないので、装着の心理的な抵抗を低減でき、患者につけてもらいやすいセンサとも言える。タッチセンサは縦方向と横方向に渡る電極が直交する構造をとり、指が近づくと対応する部分の容量が低下することをタッチとしてセンシングする。

電極も含めて読み出し回路以外は全て柔らかい電子材料を用いて作製されており、皮膚と同じ程度の伸長である30%伸長を加えてもセンシング可能である。動作原理は従来型の容量型のパッシブなタッチセンサアレイと変わらないので、マルチタッチなどのセンシングも可能である。皮膚も含めた自由曲面に貼り付け可能で、手の甲全体をウェアラブルデバイスのインターフェースとして活用することも可能となる。ウェアラブル応用以外でも、既存のロボットに貼り付けてロボットの電子人工皮膚として応用することも可能である(図3)。

3.2 伸縮性エレクトロクロミックディスプレイ

図4 皮膚に高い追従性を示すエレクトロクロミックディスプレイ素子。
図4 皮膚に高い追従性を示すエレクトロクロミックディスプレイ素子。

センサと同様に重要なのが得られた情報を表示するディスプレイ素子である。ここまでで紹介してきた伸縮性導電性高分子は、イオン液体などで構成された電解質を挟み込んだ構造をとることで、電圧印加で色を変化させるエレクトロクロミックディスプレイ素子としても活用できる。我々が開発したエレクトロクロミックディスプレイは、ゴムのような柔らかさに加え、10μmを切る厚みであるため、皮膚にとても高い追従性を示す(図4)。

2V以下の低電圧で駆動でき、大気安定性も高い。有機ELの技術などを用いた発光型スキンディスプレイ素子の開発も重要であるが、消費電力や大気安定性などの問題があるため、時間など常時情報表示するようなものには本エレクトロクロミックディスプレイが適すると考えられる。今後、マルチカラー化・高解像度化を進め、ウェアラブルデバイスとしての情報提示や、アートの分野など、様々な活用を計画している。

4. おわりに

本稿では、我々が開発した透明導電性高分子材料と、それを用いた透明伸縮性タッチセンサ、ディスプレイ素子の開発について紹介した。導電性高分子材料については、更なる高導電性化や安定性の向上について様々な角度から開発を続けている。応用先のデバイスはタッチセンサやディスプレイに限られず、脈波測定用の歪センサや伸縮性フォトダイオード用の透明電極としても活用できることを確認している。

さらにこれらを組み合わせて実際のシステムを構築するために、センサやディスプレイの素子を伸縮性のアンテナや高周波ダイオードと集積化することで無線で駆動できることも確認している。5,6)今後も我々が開発する様々な伸縮性デバイスによって、皮膚表面での光を自在に制御し、ウェアラブルデバイスの新しい可能性を模索していきたい。

謝辞

本稿で紹介した研究は、東京工業大学芦沢実助教、慶應義塾大学石黒研究室との協力のもと実現した成果である。本研究は、JSTさきがけ(JPMJPR20B7)の支援を受けたものである。さらに本研究の一部は、(一財)イオン工学振興財団、(公財)ポリウレタン国際技術振興財団、(公財)天田財団、(公財)花王芸術・科学財団、(公財)松籟科学技術振興財団、(公財)立石科学技術振興財団、(一財)鷹野学術振興財団、(公財)矢崎科学技術振興記念財団、(公財)稲盛財団の助成を受けた。

参考文献
1)Shimura, T., Sato, S., Zalar, P. & Matsuhisa, N. Engineering the Comfort‐of‐Wear for Next Generation Wearables. Adv. Electron. Mater. 2200512 (2022) doi:10.1002/aelm.202200512.
2)Matsuhisa, N. et al. Printable elastic conductors by in situ formation of silver nanoparticles from silver flakes. Nat. Mater. 16, 834-840 (2017).
3)Matsuhisa, N. et al. High‐transconductance stretchable transistors achieved by controlled gold microcrack morphology. Adv. Electron. Mater. 5, 1900347 (2019).
4)Matsuhisa, N., Chen, X., Bao, Z. & Someya, T. Materials and structural designs of stretchable conductors. Chem. Soc. Rev. 48, 2946-2966 (2019).
5)Niu, S. et al. A wireless body area sensor network based on stretchable passive tags. Nat. Electron. 2, 361-368 (2019).
6)Matsuhisa, N. et al. High-frequency and intrinsically stretchable polymer diodes. Nature 600, 246-252 (2021).

■Controlling light on skin surface for future wearable devices
■Naoji Matsuhisa

■Institute of Industrial Science, the University of Tokyo, Department of Informatics and Electronics, Associate
Professor

マツヒサ ナオジ
所属:東京大学 生産技術研究所 情報・エレクトロニクス系部門准教授

(月刊OPTRONICS 2023年1月号)

このコーナーの研究は技術移転を目指すものが中心で,実用化に向けた共同研究パートナーを求めています。掲載した研究に興味があり,執筆者とコンタクトを希望される方は編集部までご連絡ください。 また,このコーナーへの掲載を希望する研究をお持ちの若手研究者注)も随時募集しております。こちらもご連絡をお待ちしております。
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