シリコンを材料に用いた赤外光検出器

5. 赤外光検出特性検証

光検出過程の次のステップは,ショットキー障壁による光信号の電気信号への変換である。前述のように,クロムとn型シリコンでは,約0.6 eVの障壁高さが得られる。今回試作した光検出器のショットキー障壁高さを実験的に見積もったところ,多少のばらつきはあるものの0.58~0.61 eVの範囲の障壁高さが得られた。この場合,カットオフ波長は2 μmに相当するので,シリコン単体では計測できない波長の赤外光を検出する能力を持つ障壁を形成できたといえる。赤外光検出器はフォトダイオードの一種なので,光検出信号としては図1(b)で説明した光電流信号,もしくは開放電圧のどちらかを選ぶことができる。

図4 光検出特性,(a)近赤外領域の分光感度特性,(b)中赤外光照射に対する応答
図4 光検出特性,(a)近赤外領域の分光感度特性,(b)中赤外光照射に対する応答

まず,近赤外光の波長帯における光検出特性を検証した。光源としては,白色レーザの光を音響光学素子で分光して,可視光から近赤外領域まで波長掃引可能な単波長レーザを使用した。無偏光をデバイスに対して光を垂直に入射させて,入射光強度とデバイスから生じる電流量を波長毎に計測した。その結果,単波長レーザが出すことのできる限界波長である波長1.8 μmまでの近赤外光を,検出できることがわかった(図4(a))。

アンテナ構造を持たない光検出器も用意して出力を比較したが,1.7 μmより波長が長くなると,信号がノイズに埋もれてしまい,光検出が認められなくなった。アンテナ構造を有することにより光吸収が促進され,感度が向上したことを示唆するものといえる。検証した波長帯においてアンテナの有無で約10倍の感度の差がみられた。なお,感度スペクトルに光反射スペクトルにみられるような特定波長における依存性が存在しないのは,近赤外光の領域ではアンテナ構造がブロードな反射特性を示すことに起因すると解釈できる。

さらに,検出波長の長波長化についても取り組んだ。基本的に,ショットキー障壁の高さは,シリコンと金属の組み合わせで決定される材料依存の値である。そのため,今回のように金,クロム,シリコンといった扱いやすい材料を使う場合には選択の自由度はなく,検出波長の長波長化には一定の限界が存在する。ただし,ショットキー障壁に逆方向のバイアス電圧をかけると,障壁高さが減少する効果(ショットキー効果)が知られている。そこで,この効果を期待して,逆バイアス電圧状態で中赤外光を光検出器に照射したところ,無バイアス時のカットオフ波長2.1 μmをはるかに超える,波長3.2 μm以上の波長からなる中赤外光を検出できることがわかってきた(図4(b))。

なお,この場合は,光信号として開放電圧を計測している。測定条件としては,赤外光源として黒体炉の放射光をロングバスフィルタにより,波長3.2 μm以上の成分を持つ中赤外光のみ抽出し,それを光チョッパに通して230 HzのOn/Off変調をかけたものを光検出器に照射し,開放電圧を周波数領域で計測したものである。バイアス無印加状態では検出できなかった信号が,電圧–5 V相当の逆バイアスにより,ノイズレベルを超えて明瞭に計測できることが確認できている。別途,障壁高さの評価実験を行ったところ,バイアスの印可の有無により,障壁高さが当初の0.6 eVから最大で約半分の0.3 eV程度まで減少する結果が得られた。0.3 eVのカットオフ波長は4.1 μmに相当するので,この結果は中赤外光が検出できたことを裏付けるものである。

ただし,単純に平坦な薄膜で形成したショットキー障壁界面ではこれほどの障壁高さ低減はみられなかったので,中赤外光が検出できたのは,ナノサイズの構造が存在することにより得られた結果だと推測される。中赤外光検出を可能とする詳細なメカニズムは現時点では未解明だが,シリコンベースの光検出器を,さらに長波長の赤外光検出に展開する可能性を持っているので,解析を進めていきたい面白い課題である。

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