シリコンを材料に用いた赤外光検出器

3. MEMS半導体ラインを利用したデバイス試作

図2 製作プロセスと製作した光検出器の写真
図2 製作プロセスと製作した光検出器の写真

われわれの取り組みは,実用化を意識した研究開発であるので,生産ラインを想定した8インチMEMS半導体ライン(つくばTIA-NMEMS拠点)を用いて,赤外光検出器を試作した。光検出器を安価に作る上でハードルとなるのは,ナノサイズのアンテナ構造をいかに作るかという点である。通常,ナノサイズの構造は,電子線描画などの微細加工技術を利用して製造される。しかし,こうした方法は,スループットが低く,高コストである問題を抱えている。そこで,ライン内のリソグラフィのステップで,ポジレジストに過露光を行い,パターン寸法を意図的に縮小させる工夫を施し,アンテナ直径を数100 nmに微細化する方法を採用した(図2(a)左側)。

これにより,高コストなプロセスを使わずに,ナノサイズの寸法を得ることができた。そして,アンテナ構造を形成するために,Deep Reactive Ion Etchingと呼ばれる垂直方向にシリコンをエッチングする工程を行い,ピラー状のアンテナ構造を得た。そして,さらにピラー直径を縮小するために,等方的なケミカルドライエッチングを行い,ピラーをさらに細くすることができることがわかった(図2(a)右)。

最後にシリコン表面に斜め方向からスパッタを行うことで,垂直なアンテナ側壁を含む全面をクロムと金で覆い,光検出器の試作を完了した。図2(b)に示すのは,8インチのシリコンウェハに光検出器を試作したものである。図2(b)右側の囲みに示しているのは,8インチウェハをダイシングして,1 cm角チップに切り出したものである。将来的な,可視イメージャとの統合可能性を検証するために,通常の可視光フォトダイオード3つと,ナノアンテナ構造を有する赤外線検出部1つを統合した構造となっている。

図2(c)は,アンテナ構造が形成された部分を拡大した電子線顕微鏡写真である。均一なナノアンテナ構造が林立していることがわかり,採用した過露光プロセス条件が適切であったことがうかがえる。アンテナ構造の断面図を透過顕微鏡で観察すると,アンテナの表面全体がクロムと金の薄膜によって完全にコーティングされていることが確認できた(図2(d))。現在,こうした確認を経て,MEMS半導体ラインにおいて,受光素子単体の安価な製作方法の基礎検証が完了した段階である。

4. 赤外光吸収特性の検証

図3 光学特性,(a)分光器による実験,(b)計算による検証(COMSOL Multiphysics 5.2 a使用)
図3 光学特性,(a)分光器による実験,(b)計算による検証(COMSOL Multiphysics 5.2 a使用)

光検出過程の最初のステップである,光吸収の特性を検証した。具体的には,アンテナ構造に対して,赤外線を照射して,その反射特性から吸収特性を見積もる作業として,反射型の対物レンズで光検出器を赤外光により照射した際の反射率を計測したものである。その結果,図3(a)に示すように中赤外光の波長領域において,反射率が特定の波長において大きく減少するようなカーブを描く傾向がみられた。また,そのカーブの中心波長が構造寸法に依存して,系統的にシフトすることもわかった。

この実験結果は,有限要素法によるシミュレーション結果(図3(b))とも整合的である。シミュレーション結果を勘案すると,反射において失われたエネルギは,アンテナ構造の金表面上で発生する表面プラズモン共鳴によるものと示唆されると解釈される。アンテナの軸方向に電場の振動成分を持つ入射光が,金属中の自由電子を振動させてアンテナ軸方向に分極が生じ,光吸収を生じているという解釈である。この振動は,金ナノロッドにおいて生じる局在表面プラズモン共鳴の一種と考えることができる。

現時点では,特定の波長の吸収増大を目標にした設計チューニングなどは行っていないが,アンテナ構造の直径や長さなどのパラメータでターゲット波長を絞り込んだ設計が可能と考えている。一方で,波長2 μm以下の近赤外領域では,このような明確なピークを持つ反射スペクトルではなく,波長に対してブロードな反射率の減少を示している。これは,近赤外光の領域では,上記の振動モード以外にアンテナの半径方向などを共鳴体とする多数の表面プラズモン共鳴が複雑に介在していると考えられるため,解析途上である。

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