プラズモニックメソグレーティングの作製
~波長より1桁小さなものづくり

1. はじめに

wakate_1608_06

フラットな金属薄膜に入射した光は鏡面反射される。これに対し,プリズムを介するなど特殊な条件で光を入射することで,入射光を金属薄膜表面を伝播する自由電子の振動に変換することができる。この光と結合した自由電子の振動は表面プラズモンポラリトン(SPP)と呼ばれ,ナノメートル領域への光閉じ込めと局所的な光電場の増強を実現する1)

またフラットな金属薄膜ではなく微粒子状の金属が分散した基板に光を入射した場合は,プリズムを用いなくても微粒子の表面に自由電子の振動が誘起され,微粒子に局在するSPPが発生する。この際,発生する増強光電場の周波数や強度は微粒子のナノ構造に依存して変化する。この増強光電場を使って,薄膜表面に存在する化学分子を高感度にセンシングしたり,発光性分子の発光強度を飛躍的に高めることができるため,これらの効果を狙った強力な電場を発生させる構造の研究開発が,この分野の近年のトピックのひとつである。

強力な増強光電場が実証されている構造のひとつに「ナノギャップ」を持つ構造がある。これは例えば2つの微粒子を数ナノメートルの間隔をあけて配置した構造で,微粒子間のナノギャップに強力な光電場が誘起される。したがって,このナノギャップを高密度かつ簡便に作製する手法が研究されている。近年の電子線描画等をはじめとするトップダウンナノ加工技術はナノギャップを精度よく作製できる優れた手法であるが,大面積の加工には時間とコストがかかることが課題である。

トップダウンナノ加工技術を補完する技術として,分子やコロイドの自己組織化を利用するボトムアップの構造作製技術が研究されてきた。代表的なものに,ナノ球リソグラフィ2, 3),斜め蒸着4),ラングミュアーブロジェット膜5),陽極酸化マスク6),ナノファセットリソグラフィ7)などが挙げられる。しかし,これらの方法を駆使しても,光の波長よりも1桁小さい,数十ナノメートル(=メソスケール)の周期構造を大面積にわたって作製するのは容易ではない。

図1 高配向性メソポーラスシリカ薄膜と金属斜め蒸着による構造作製。
図1 高配向性メソポーラスシリカ薄膜と金属斜め蒸着による構造作製。

私たちはボトムアップ法由来のメソ多孔質材料であるメソポーラスシリカをテンプレートとして,メソスケールで金のグレーティング構造を得る手法を開発している。メソポーラスシリカとは,界面活性剤とケイ素アルコキシドが共存する系において,界面活性剤の自己組織化によって作られるメソスケールの周期構造を,ケイ素アルコキシドの加水分解・重縮合反応によって得られるシリカの骨格で固定化した一連の材料群であり,界面活性剤の種類などのパラメタ制御により周期スケール・構造の次元などの制御が可能である8, 9)

また,基板上にスピンコートやディップコート法で成膜することにより,薄膜を得ることも容易である。この材料をテンプレートとした金属ナノ構造の作製はこれまでにも検討がある10, 11)が,ナノギャップを高密度に作製することは意図されてこなかった。私たちは,面内に一軸配向したメソポーラスシリカ薄膜に金を斜め方向から蒸着することにより,メソポーラスシリカ表面の十ナノメートルスケールの周期構造を反映したナノギャップを有する金メソグレーティング構造を得ることを狙って,研究を進めている(図1)。

本稿では,実験に先立ち行った最適なロッド径およびロッド間距離を見積もるためのシミュレーション結果と,実際に作製した金メソグレーティング構造の光学特性について報告したい。

関連記事

  • 超小型衛星搭載に向けたハイパースペクトルカメラの小型化と軌道上観測

    著者:福井大学 青柳賢英 1. はじめに 人工衛星による地球観測は,従来から農林水産業や災害監視などの分野で活用されてきた。例えば農業分野では,農作物の収量予測や土壌状態の把握などに利用されており,また災害監視分野では,…

    2026.05.13
  • 新規赤外受光材料の開発に向けたMg3Sb2薄膜のエピタキシャル成長

    著者:茨城大学 坂根駿也 1. はじめに 近年,人工知能(AI)やモノのインターネット(IoT),自律航行ドローン,自動運転技術などの急速な発展に伴い,多様な波長帯域における赤外受光センサーの需要が飛躍的に増大している。…

    2026.05.13
  • 地球と人工知能を繋ぐ光ファイバーセンサー

    著者:光産業創成大学院大学 林 寧生 1. はじめに 2026年3月,まだ寒さの続く季節の仕事帰り,電車の中で無意識に開くソーシャルネットワークサービス(SNS)。そのコンテンツは人が作っている。生成AI動画も人が指示を…

    2026.02.26
  • 安定な有機光触媒を利用した光触媒反応の開発

    1. はじめに 近年の地球環境問題への関心の高まりから,有機合成化学分野においても環境に配慮したものづくりが注目されている。特に最近では,クリーンなエネルギー源である可視光を活用したフォトレドックス触媒反応が精力的に研究…

    2026.02.12
  • フォトサーマルナノポアによる単一分子レベルでのラベルフリータンパク質構造ダイナミクス解析技術

    1. 背景 タンパク質の三次元構造は,生命現象の根幹を支える重要な要素である。X線回折を用いて立体構造解析が報告されて以来,核磁気共鳴分光法やクライオ電子顕微鏡,質量分析など,多様な実験技術が開発され,タンパク質の構造と…

    2026.01.13

新着ニュース

人気記事

編集部おすすめ

  • オプトキャリア