半導体レーザー(その二)

ウエハーの上表面と下表面に反射層を堆積させるか,場合によっては反射構造を持つ半導体の多層構造を作ることになります。この面発光レーザーは,基板ウエハーチップの上で非常に小さな面積しか持っていませんので,同じ構造を持つ面発光レーザーを高い密度で作ることができるのが特徴です。

例えば,GaAs基板結晶の上に,一辺が数μmの面積の面発光レーザーを1cm2の中に2百万個以上も作られています。一個のレーザーが小さいことは,レーザー発振のしきい値が低いことを意味しています。レーザー発振が生じる最も低い電流値は1mAが報告されています。

多数のレーザーを同じ半導体チップの上に作りますが,同じ性質のレーザーを作って高出力の高コヒーレンス光を作ることもできますし,一方,各レーザーを異なる波長で発振させ,しかも各レーザーを独立に変調するようなアレイ構造も可能です。今後,ますます注目を集めそうな半導体レーザーと言えるでしょう。

ダブルヘテロ構造において,真ん中の活性層をどんどん薄くしていって,数十nm以下になると,活性層内に閉じ込められた電子がとびとびのエネルギー値しか取れなくなります。原子の中に閉じ込められた電子と同じです。このような構造を量子井戸と呼びます。井戸のような狭く深い穴に落ちた電子です。

広い結晶のなかにいる電子は価電子帯と伝導帯というギャップはありますが,伝導帯内ではその名の通り帯状のほとんど連続的なエネルギーを持つことができます。これに対して量子井戸内では伝導帯が不連続な準位(サブバンドと言います)に分かれています。


図6
図6

図6は,AlGaAs層の間にGaAs量子井戸がある場合のエネルギー図です。活性層内の伝導帯は跳び跳びのエネルギーのサブバンドに分かれています。価電子帯の正孔のエネルギーも同様に跳び跳びになります。発光はだいたいの場合,伝導帯の一番下のサブバンドの電子と価電子帯の一番上のサブバンドの正孔が結合して起きます(図6のA)。

このサブバンドのエネルギーは量子井戸の幅(厚み)で変化しますので,発光波長もある程度変化させることができます。量子井戸ではエネルギー準位が跳び跳びになっていますが,発光は主にもっともエネルギー差の小さいサブバンド間で起きます。

このサブバンドに入れる電子の数は普通の伝導帯に比べると少ないので,少ない電流ですぐいっぱいになり,誘導放出が起きやすい状態になると考えられます。このためしきい電流密度が非常に小さいレーザーができることになります。このような構造は,主に光通信に利用されています。

また,伝導帯内のサブバンド間で遷移Bも起こります。この場合は,3~10 μmの赤外光が得られます。この波長域は,多くの分子がこの波長域に吸収線を持っていますので,高感度ガスセンシングに利用されています。

量子井戸がひとつだけの場合もありますが,複数の量子井戸を重ねることもできます。複数の量子井戸層の間に薄い障壁層を挟み多重にした量子井戸を多重量子井戸(MQW:Multi quantum well)と言います。この多重量子井戸を使った半導体レーザーを略してMQWレーザーと言うこともあります。量子井戸を多重にすることで1つの素子内で発光する層が増えることになりますから発光強度の強いレーザーが実現できます。

宮崎大学・名誉教授 黒澤 宏


黒澤 宏
黒澤 宏
執筆者紹介
黒澤 宏(くろさわ こう)
大阪府立大学工学部博士課程を経て1976年より同大学助手,助教授を経て1991年より宮崎大学工学部電気工学科教授,その後2007年9月に大学教員生活に終止符を打ち,(独)科学技術振興機構JSTイノベーションサテライト宮崎の館長に就任し,地域における産学官連携業務に専念。現在は(一社)九州産業技術センター 成功報酬型事業化支援制度・専任コーティネータを務めている。レーザーEXPOにおいては,2003年から主に基礎部門の講師を務めており,初心者にわかりやすくレーザーについて解説している。

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