高出力半導体テラヘルツ信号源とその応用

著者: 鈴木 左文

1. はじめに

テラヘルツ(THz)技術は20年以上継続的に開発されてきたが,依然その用途は非常に限られており,実用的へのチャレンジが続いている。ただ,第五世代移動通信システムにおけるミリ波普及の懸念はあるものの,2020年頃からさまざまな企業や大学が発表している次世代移動通信システム(Beyond 5G/6G)に関するホワイトペーパーでは大容量かつ低遅延の通信やアクティブセンシングへのサブTHz~THz波の利用が言及され1, 2),THz技術への期待があらためて高まっている。THz波の透過性とレーダー測定を組み合わせれば,秘匿物に隠れた三次元形状が観測でき,セキュリティや検査応用が期待され3, 4),さらに,ドローンの位置特定や地形認識,ジェスチャ認識などへの活用も可能と考えられる2, 5)。また,THz波は医療への応用も期待され,正常細胞とがん細胞の判別などの検査用途だけでなく,高強度THz波の照射による生体組織への積極的作用なども報告されている6)。このような新たな無線通信,センシング,医療応用には高機能で高出力なテラヘルツ信号源の開発が重要となっている。

図1(a)に,ここ10年間において研究の進展が顕著な小型の半導体信号源と,トランジスタ電力増幅器(PA)の動作周波数と出力を示す。THz信号源の開発は,光デバイスと電子デバイスの両方から行われている7)。量子カスケードレーザー(QCL)はサブバンド間遷移を利用した半導体レーザーであり,差周波発生QCL(DFG-QCL)は中赤外二波長発振QCLの光非線形性による差周波発生を利用したTHz信号源である8〜10)。QCLでは室温発振は達成されていないが,最近の量子井戸構造の進歩により,動作温度は〜3−4 THzの範囲で〜260 Kまで急速に上昇している11)

図1 (a)テラヘルツ信号源の現状,(b)電子デバイス信号源・増幅器の電力密度
図1 (a)テラヘルツ信号源の現状,(b)電子デバイス信号源・増幅器の電力密度

一方,DFG-QCLは室温でTHz発生が可能で,400 GHz以下の信号生成が報告されている12)。共鳴トンネルダイオード(RTD)は,負性抵抗特性を持つダイオードであり,約2 THzの基本波発振を達成している13, 14)。また,アレイ化することにより,450 GHzで10 mWを超える出力と変換効率1%の発振が報告されている15)。トランジスタ集積回路は,現在のアナログSi CMOSの最大発振周波数fmaxは300 GHz程度であるが,高調波発生により300 GHzを超える高周波の生成が可能になっている16)。144個の大規模アレイでは,675 GHzで〜8 mWの高出力が報告されている17)。増幅器については,Si CMOSまたはSiGe BiCMOS回路では,200 GHzを超える信号の増幅は困難な状況である。しかし,InPベースのヘテロバイポーラ接合トランジスタ(HBT)と高電子移動度トランジスタ(HEMT),および,GaAs基板上のメタモルフィックHEMT(mHEMT)のfmaxは1 THzを超えており18, 19),>300 GHzの増幅が可能であり,その飽和電力Psatは>10 dBmに達している16)

上記で説明したように,大規模なCMOSアレイ発振器は室温でミリワットを超える出力を発生することが可能となってきているが,アレイ素子の数が増えると大きなチップ面積が必要となる。そのため,出力電力をチップ面積で割った電力密度で各デバイスを比較したものを図1(b)に示す16, 20)。InPベースのPAは電力密度が高いため,SiベースのMMICとのハイブリッド集積に関する研究が300 GHz以下の周波数帯で集中的に行われているが21〜26),400 GHzを超えると,PAの電力密度は急速に低下する。ここで,RTDは高周波領域で比較的高い電力密度を有しており,>400 GHzでの応用に適していると考えられる27, 28)。さらに,RTD発振器をSi MMICの局部発振器として使用すれば,Si MMICの動作周波数を飛躍的に向上させることも可能である。

本報告ではこれらRTDデバイスの単体高出力化,および,高電力密度化に関する我々の最近の研究について紹介し,また,開発したデバイスを用いたレーダー,イメージング応用について概説する。

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