国立遺伝学研究所、オーフス大学(デンマーク)、デンマーク工科大学の研究グループは、微小なシリコン太陽電池と熱分解カーボン(pyrolytic carbon)からなる立体的な3次元電極を高密度に集積した、新しい光起電力型人工網膜を開発した。近赤外光を照射することで発生する電気刺激により、摘出したマウスおよびブタの網膜で神経活動を誘発できることを実証した(ニュースリリース)。

網膜色素変性症や加齢黄斑変性症では、光を受容し、神経信号となる電気信号へ変換する視細胞が変性・脱落することで、視覚情報を脳へ伝達することが困難になる。一方、視細胞から情報を受け取る双極細胞や、脳へ情報を伝える神経節細胞などは残存する場合がある。このため、残存する網膜神経細胞を電気刺激することで視覚機能を補う「人工網膜」の研究が進められている。
光起電力型人工網膜は、多数の微小な太陽電池によって近赤外光を電気エネルギーに変換し、網膜神経細胞を刺激する技術。高精細な視覚の再現には、太陽電池と刺激電極のさらなる小型化・高密度化が求められる。しかし、従来の金属電極には、生体適合性や微細加工の難しさなどの課題があった。

そこで研究グループは、刺激電極の材料として熱分解カーボンに着目した。カーボンは生体適合性や化学的安定性に優れ、立体構造への加工が可能という特徴を持つ。
今回、半導体微細加工技術を応用し、シリコン太陽電池上に形成した微細な樹脂構造を高温で熱分解することで、太陽電池に3次元形状のカーボン電極を集積することに成功した。高温処理後も太陽電池の発電性能は維持され、近赤外光の照射によって最大約0.5Vの電圧を発生できることを確認した。
さらに、開発した人工網膜をマウスおよびブタの網膜に配置し、近赤外光を照射したところ、網膜神経細胞に神経活動が生じることを確認した。得られた活動パターンは、通常の可視光によって視細胞を介して誘発される神経活動と類似していた。また、3次元構造を持つカーボン電極は、平面型電極と比べて網膜神経細胞との接触性に優れ、より効率的に神経活動を誘発できることも示した。

今回の成果は、熱分解カーボンが光起電力型人工網膜の刺激電極として利用できることを示すもの。今後は、太陽電池のさらなる小型・高密度化に加え、カーボン電極の形状や配置の最適化、安全性、長期安定性などを検証し、高い空間分解能と効率的な神経刺激を両立する人工網膜の実現を目指す。将来的には、網膜変性疾患によって失われた視覚機能の回復に向けた、臨床応用への展開が期待されるとしている。



