NTT,生体器官の運動を模倣可能な光駆動型運動素子

日本電信電話(NTT)は,バイオデジタルツインの実現に向けて,光刺激で素早く動くハイドロゲル薄膜を,独自のオンチップ構造形成法により生体を模した薄膜・管状構造とすることで,生体器官の動きを再現できる運動素子を作製することに成功した(ニュースリリース)。

センサ基板上などで生体機能を再現可能なオンチップ型人工臓器が実現できれば,細胞レベルの解像度で各種臓器の様々な情報を精細なデータとして取得でき,それらをもとにしたバイオデジタルツインの構築や,実際の臓器と比較したモデルの妥当性を検証する実機などへの応用が考えられる。

このオンチップ型人工臓器の創製に向けては,「生体に優しい材料」・「生体に近い形状」・「生体内の刺激環境」を同時に実現できる技術が求められてきた。

研究では,「光で素早く動かせる」ハイドロゲル薄膜を設計・作製し,オンチップ構造形成法を適応させることで,光駆動型の運動素子を作製した。細胞培養基材としても使用されている汎用的な材料である温度応答性のポリイソプロピルアクリルアミドゲルと光熱変換材料である金ナノロッドを複合化することで,光刺激箇所のみ水を吐き出させ,収縮変形させることができる。

研究グループは,基材となるポリイソプロピルアクリルアミドゲルを多孔質化することで,水の出入りの高速化を可能にした。また,光熱変換材料である金ナノロッドの含有量を調整することで,応答温度である35℃まで迅速に加熱できる設計にした。これにより,光照射による発熱で,高速収縮変形が可能なハイドロゲル材料を作製することができた。

また,座屈剥離によるオンチップ構造形成法は,薄膜材料を平面状態(2次元)から座屈状態(3次元)へと大きく変形させることが可能。この座屈変形機構により,ハイドロゲルが水を吸って膨らむ通常の膨潤変形と比較して1桁大きい変位増幅が可能であり,世界トップレベルの性能を実現することができた。

開発した材料にオンチップ構造形成法を適応させることで,座屈剥離に基づく薄膜・管状構造が得られることを実証した。こうして得られた生体とよく似た薄膜・管状構造は,光照射によって生き物のように滑らかに素早く動かすことができ,高速応答・大変形・局所応答が可能な運動素子として世界トップレベルの性能を実現した。さらに光刺激を制御することで,腸管の分節運動と蠕動運動を,生体に匹敵する性能で再現することに成功した。

この運動素子は,チップ上に生体内環境を再現する基盤技術としてオンチップ型人工臓器創製につながる。NTTはこの研究を通じて得られる多くのデータにより,バイオデジタルツインの構築・検証を進るとしている。

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