慶應義塾大学と中国西安交通大学は、これまで微小光共振器から生成される光周波数コム(マイクロコム)には不利と考えられてきた結晶の光学特性を活用することで、マイクロコムの出力パワーと効率を飛躍的に向上させることに成功した(ニュースリリース)。

マイクロコムの中でもコヒーレンス性が高く、雑音の低い状態であるソリトンコムは、多くの応用へ適しており社会実装へ向けた取り組みが始まっている。しかし、ソリトンコムには、出力光パワーと励起光からの変換効率が低いという根本的な課題があった。
特に、数GHzから数百GHzの高い繰り返し周波数で動作するソリトンコムでは、励起に用いる連続波レーザー光の大部分が共振器を素通りしてしまい、実際に利用可能なコム光は励起パワーの数%以下、出力にして数ミリワット以下にとどまることが一般的だった。そのため、高性能な応用には外部光増幅器が必要となり、システムの大型化や雑音増大化を招く原因となっていた。
これまで、パルス励起や結合共振器構造などの変換効率を向上させる手法が提案されてきたが、これらはシステム全体として動作や構成が複雑になるという課題が残されていた。そこで、単純な発生機構を維持したまま、高出力かつ高効率なソリトンコムを実現する新たな物理的指針が求められていた。
研究グループは、フッ化マグネシウム(MgF2)単結晶からなる超高Q微小光共振器に着目し、結晶がもつ強い複屈折性と、それに起因する光学的特性をあえて積極的に利用することで、これまでにない高出力・高効率のソリトンコムを実現した。
MgF2は複屈折性を有する単軸結晶。結晶の光軸に対する切り出し方向によって、共振器内を伝搬する光の性質が大きく変化する。従来は、安定したマイクロコム形成を可能にする、光軸と共振器の対称軸が一致する方向に切り出したzカット共振器が主に用いられてきた。しかし、zカット共振器では偏光ごとの屈折率が一定で、波長分散は比較的穏やかなため、ソリトンの出力や変換効率には限界があった。
これに対し、今回の研究では光軸が共振器の対称軸と直交するx軸方向に切り出したxカット共振器を取り入れた。xカット共振器では、結晶の複屈折により、光が共振器内を一周する間に特定の偏光モードの屈折率が周期的に変化する。この効果により、偏光モード間で強い相互作用が生じ、共振器の波長分散に大きな歪みが誘起される。
通常、このような強いモード間相互作用はソリトンコムの形成を妨げる要因と考えられてきたが、研究グループは、この現象が特定の波長帯域で局所的な非常に強い異常分散を生み出すことを突き止めた。この局所分散領域をマイクロコム形成に利用することで、ソリトンコムのエネルギーを大幅に増強し、高出力動作を可能にした。
実験の結果、xカットMgF2共振器において、繰り返し周波数15.5GHzで動作しながら、平均出力最大約38mW、変換効率最大28%に達するマイクロコムの生成に成功した。得られた光パルスは数ピコ秒のパルス幅を持ち、安定した低雑音動作を示した。
研究グループは、この成果は、次世代通信、精密計測など幅広い分野でのマイクロコム技術の実用性を大きく前進させるものだとしている。



