東京科学大学の研究チームは、熱や光に強く、力によってのみ反応する新しい力学応答性分子(メカノフォア)を開発した(ニュースリリース)。
力(機械的刺激)によって特定の化学反応を起こし、色や蛍光特性を変化させる「力学応答性分子(メカノフォア)」が注目を集めている。メカノフォアを高分子鎖に導入すると、材料の外力が集中した部分でメカノフォア特有の反応が起こり、色の変化や発光により損傷部位を可視化できる。また近年では、光学特性の変化だけでなく、自己強靭化や低分子の放出など、さまざまな応答を示すメカノフォアの設計も進められている。
しかし多くのメカノフォアは、もともと熱や光で起こる反応を力で誘発するという設計に基づいているため、力以外の刺激にも応答してしまうという課題があった。そのため、熱や光に対しては安定で、力にのみ応答するメカノフォアが実現できれば、より信頼性の高いセンサーや次世代高分子材料の開発に大きく貢献すると期待されている。
研究グループは、従来のように力が加わると切れやすい弱い分子を選んで試す方法ではなく、一見すると切れにくそうな分子を対象に、分子内のどの結合が力で切れやすいかを予測できるDFT計算の手法を活用して、力に応答する分子の探索を行なった。
その結果、ジアリールアセトニトリル-α-カルボン酸エステル(DAANAC)とよばれる分子骨格が、力を受けたときに蛍光ラジカルを生成する可能性があることを発見した。

この計算結果を検証するため、DAANACを実際に合成し、架橋高分子へ導入した。得られた高分子フィルムの引張試験を行なったところ、予測通り蛍光ラジカルに由来する発光が確認され、電子スピン共鳴(ESR)測定によってラジカル種の生成も確認された。

さらに、DAANAC骨格は200℃を超える高温や紫外線照射下でも分解しない高い安定性を示した。これらの結果から、DAANACは力のみで作動する新しいタイプのメカノフォアであることが明らかになった。
研究グループは、この研究で得られた知見は、力に応答する分子設計の新しい指針を与えるものであり、今後は計算化学による予測を活用して、DAANACの構造拡張や化学修飾を行ない、応答性を制御できるメカノフォアの開発を進めるとしている。




