東大,光分解と光安定性を両立した光加工性材料開発

著者: 梅村 舞香

東京大学の研究グループは,光と酸による協働分解が可能な材料を新たに開発した(ニュースリリース)。

光分解を活用した光加工技術で用いられる光加工性材料は,光に対する反応性を持ち続けているため,光への安定性が低いことが知られている。分解性と安定性は相反的な性質であり,分解の引き金となる刺激の下での長期安定性と,刺激による迅速な分解性の両立は困難とされてきた。

そのため従来,光という身近な刺激を用いる光加工性材料は,太陽光や蛍光灯などの光が当たらない状況でしか使えないという制約があり,その幅広い活用における大きな制限となっていた。

今回,研究グループは,その制限を打開する手法として,光と酸による協働分解が可能な材料を新たに開発した。この材料は,光や酸に対して安定でありながらも,光と酸を同時に作用させることで効率的に分解可能な物質から構成されている。

そのため,この材料は普段は光に安定でありながら,酸の有無によって光安定な状態と光分解可能な状態を自在に切り替えることができる。

研究グループはこれまでにも,光と酸による協働分解材料の開発に成功してきたが,この従来材料は白金化合物を含むことが必須であり,非常に高価な貴金属を利用するコスト的な問題や,光安定性が低いなどといった問題を抱えているため,実用的な材料としては依然大きな障壁を有していた。

これらの課題を解決するため研究グループでは,より豊富に存在する原料を用いて光・酸協働分解を実現するための設計をゼロベースで組み立て,検討を繰り返した。その結果,安価でかつ高い安定性を有しつつも,優れた光・酸協働反応性を有する物質を新たに見出すことに成功した。

ジピレニルケイ素化合物と呼ばれる物質は,地球上に豊富に存在するケイ素から構成される化合物でありながら,先行研究の白金化合物よりも光安定性が高く,さらには高効率な光・酸協働反応性を示すことを明らかにした。

さらに,ジピレニルケイ素化合物を高分子材料中に架橋点として導入することで,材料は高い光安定性を有していながら,酸の存在下で光を照射すると速やかに分解反応が進行し,酸の有無によって光分解性と光安定性を切り替えられる材料となることを実証した。 

今回,豊富に存在する原料からなる材料でありながらも,光と酸による協働的な分解性を付与することに成功した。これを用いて,従来は光による微細制御との両立が困難とされてきた,光機能材料や光造形材料に対しても光分解や光加工が可能となることを実証した。

研究グループは,この研究は,材料の光制御技術における更なる革新に貢献することが期待されるものだとしている。

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