早稲田大学,山口大学,京都大学は,MXene(マキシン:2次元ナノシート状の遷移金属化合物)を市販のソフトコンタクトレンズに安定的に統合し,透明で安全な導電性コンタクトレンズの開発に成功した(ニュースリリース)。
近年,コンタクトレンズ型のウェアラブルデバイスが注目を集めているが,安全で効率的な電磁波シールド技術および高い透明性と柔軟性を両立させた素材開発が不可欠となっていた。
MXeneとは,二次元構造の遷移金属炭化物・窒化物・炭窒化物の総称。高い導電性や電磁波遮蔽性能を有するため,エネルギー貯蔵,センサー,電子デバイスなど多方面で期待されている。
研究グループがMXeneをフィルターペーパーに堆積させたところ,膜厚の増加に伴い導電率が向上した。市販のコンタクトレンズ上に貼り付けるために,有機溶媒でフィルターペーパーを溶かすが,この際,フィルターペーパーを完全に溶かさないことで,透明で薄膜化されたフィルターペーパー(保護膜)と下地のレンズでMXene薄膜を挟み込むことを可能にした。
また,適切な厚みのMXene薄膜を形成することで,可視光で80%以上の透過性を確保しつつ,約85%遮蔽に相当する電磁シールド効果を発揮した。
MXeneレンズを市販の豚眼に装着して電子レンジ(初期温度13 °C,2.4GHz,170Wで30秒間暴露)の中に設置した結果,MXeneレンズ(36 °C)を搭載した豚眼は,通常のコンタクトレンズ(45 °C)に比べ温度上昇を抑えることに成功した。
また,無線給電の仕組みを利用し,より高周波帯域である5.8GHz付近の周波数域におけるMXeneフィルムの電磁波シールド性能を評価した。0.04mg/mL濃度で作製したMXene薄膜(平均膜厚2.1mm)は,約85%の電磁波を遮蔽できることを確認した。さらに,EMIシールド効果は,先行研究の1.8倍以上高い値を示した。研究グループは,金属を除けば,マイクロスケールの厚みでは世界最高レベルの性能を達成したとしている。
さらに,MXeneの多層構造により従来よりも乾燥しにくいコンタクトレンズになる可能性があるほか,ヒトおよびウサギを用いたIn Vivo評価を通じて,生物学的に安全であることを確認。市販レンズとの比較から,MXeneレンズの安全性は通常のレンズと同等であることがわかった。
研究グループは,今回開発した転写および封止技術について,次世代スマートコンタクトレンズへの応用を見据え,関連企業やスタートアップ企業との協議が期待できるとしている。