理科大,色を識別する光電子シナプス素子を開発

東京理科大学の研究グループは,色素増感型太陽電池を応用した新しい光電子デバイスの開発に成功した(ニュースリリース)

近年,自動運転車やスマート農業,さらには監視システムなど,リアルタイムでの視覚情報の認識と判断が必要な分野が急速に拡大しており,それに対応するための,マシンビジョン技術の進化が求められている。

しかし,従来のマシンビジョンシステムは,カメラで取得した膨大な画像データを一度メモリに保存し,プロセッサで順次処理するため,消費電力の増大,転送遅延,処理速度の限界といった課題が顕在化している。特にエッジデバイス上でのリアルタイム処理には大きな制約があった。

これに対し注目されているのが,人間の脳のシナプスのように,入力に応じて記憶と信号処理を同時に行なう,人工シナプス型デバイス。中でも,光刺激に対して電気信号で応答する,光電子人工シナプスは,視覚取得と情報処理を一体化する次世代センサーデバイスとしての期待が高まっている。

しかし,従来の光電子シナプスは外部電源が必要だったり,出力信号が弱く,色識別性能が限定的といった実用化上の課題を抱えていた。

こうした背景のもと,研究グループは,色素増感型太陽電池を基盤にした新しい光電子シナプスデバイスを開発した。これは外部電源なしに自己発電が可能でありながら,入力された光の色(波長)に応じて異なる出力信号を生成できるという優れた特性を備えている。

使用した色素は,青色域(450nm)に応答するD131と,赤色域(600nm)に応答するSQ2の2種類。これらを用いた太陽電池型デバイスでは,D131が正の電圧応答,SQ2が負の電圧応答を示し,色の違いを高精度で識別可能。しかも,波長に応じた連続的な電圧変化が得られるため,シナプスのような時系列応答(履歴性)も再現できる。

このデバイスを,物理リザバーコンピューティングに応用し,入力された光信号をデバイス内で高次元処理した。最終的な分類や認識は簡易なアルゴリズム(線形回帰や簡単なニューラルネットワーク)で実行できる構成とした。

具体的には,①光パルスパターンの分類(最大6ビット),②異なる波長を用いた論理演算(AND,OR,XOR),③RGB光応答を組み合わせた人の動作分類タスクでテストし,最大82%の認識精度を達成した。省電力かつ高速での実時間処理の実現可能性を示した。

研究グループは,この成果は,自動運転,監視システム,スマート農業などに不可欠な,次世代マシンビジョン技術の飛躍的な発展につながると期待されるとしている。

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