
京都⼤学らの研究グループは,晴れた⽇には花が上を向き,⾬の⽇には下を向く植物について,その意義とメカニズムを解明した(ニュースリリース)。
花は⾬や⾵に弱く,昆⾍の活動が少ない時には花を守ることが必要。⾬の時に花を⾒てみると,花を閉じたり下を向いたりしているが,これまで天候に応じて花の向きを変える意義とメカニズムは分かっていなかった。このプロジェクトでは,植物がどのように,また何のために花の向きを変えるのかを明らかにするために,野外調査と操作実験,遺伝⼦発現解析を行なった。
アブラナ科のハクサンハタザオを対象に,野外調査と操作実験,遺伝⼦発現解析を行なった。兵庫県多可郡多可町の⾃然集団における野外調査により,花の向きがどの環境要因に影響を受けるのかを調べた。また,花が向きを変えるときにどの遺伝⼦が機能するのかを知るために,野外で花柄をサンプリングし,RNAシーケンスにより発現している遺伝⼦を調査した。
野外調査から,花の向きは光,温度,体内時計に影響を受けることが予測された。さらに,花の向きに影響を与える環境要因を絞り込むために,グロースチャンバーで光と温度,湿度,⽇周期を変える実験を⾏なった。その結果,昼の時間帯において,温度がある程度⾼い時に,花が⻘⾊光の⽅向を向くことが判明した。この条件は花粉を運ぶ昆⾍(ポリネーター)が活動するときの環境に⼀致していた。
RNAシーケンスの結果,花が下を向く時には重⼒屈性に関する遺伝⼦が発現していた。花が上を向く際には,花柄の下側でオーキシン関連の遺伝⼦発現が⾼まり,下を向く際には,花柄の上側でオーキシン関連の遺伝⼦発現が⾼まったことから,花柄の偏った細胞伸⻑により花の向きが変わることが明らかになった。
これまでに明らかになったことを⽤いて,⻘⾊光を当てることで花の向きを⼈⼯的に変える操作実験を⾏なった。⾬のもとでは,下向きの花では上向きの花よりも花粉の流失が抑えられ,花粉の⽣存率が上がった。花粉が⾬に濡れると,急速に死亡することもわかった。⼀⽅で,晴天下では,昆⾍が訪花し,上向きの花では下向きの花よりも花粉の持ち出しが増え,種⼦の数が増えた。これらのことから,天候に応じて花が向きを変える運動は,植物の積極的な応答であり,適応的な形質であるという。
これまで,野⽣植物を⽤いた研究の多くは⽣態学的意義を明らかにすることを⽬的とするものが多い⼀⽅で,メカニズムについては分⼦⽣物学分野において限られたモデル植物を⽤いて研究がされてきた。この研究は,⽣態学分野においてはメカニズム研究に踏み込み,分⼦⽣物学分野においては⽣態学的意義を研究に取り⼊れる道を拓くものだとしている。