立教大学,東京大学,JAXAは,開発した超小型極端紫外線イメージャー「PHOENIX」を用いて,地球プラズマ圏の全体像を撮影することに成功した(ニュースリリース)。
JAXAと東京大学が共同開発し,2022年11月に打ち上げられた超小型深宇宙探査機「EQUULEUS」に搭載されたPHOENIXは,1U(10cm×10cm×10cm)以下のサイズかつ0.55kg未満でありながら,地球周辺プラズマの発光を高感度で観測することが可能なEUVイメージャーとなっている。
PHOENIXは,波長30.4nmの極端紫外線を観測するために設計されたカメラで,地球を取り巻く宇宙空間に存在するHeイオンが発する輝線を捉えることができる。この波長の光は地球の大気によって吸収されるため,宇宙空間からの観測が必要となる。PHOENIXは,多層膜コーティングを施した鏡を用いることで高い反射率を実現し,微弱なEUVを効率的に検出することができる。
PHOENIXは,2023年5月にEQUULEUSが地球と月のラグランジュ点へ向かう途中で,地球のプラズマ圏の全体像の撮影に成功した。
これまでの観測では,多くが地球の北側からの視野で行なわれてきた。上方からの観測では,プラズマ圏全体の構造を把握できるものの,異なる高度のプラズマが重なって見えるため,詳細な密度分布の把握が困難だった。
一方で,PHOENIXは地球のプラズマ圏を側方から観測することで,磁力線に沿ったプラズマの密度構造を明瞭に捉えることができた。側方からの観測は,プラズマ圏全体の立体的な構造を把握するのに適しており,地球周辺のプラズマ分布の詳細な解析が可能となる。
特に,地球中心方向からの観測では捉えにくいプラズマ圏の外縁部やその変動を明確に識別することができる。また,磁力線に沿ったプラズマの構造を直接可視化することで,プラズマ圏の詳細な密度分布や動態を解明する新たな手がかりを提供した。
これにより,これまで困難だったプラズマ圏の詳細な三次元構造の把握が可能となった。さらに,地磁気擾乱に伴うプラズマ圏の収縮現象も確認された。特に,夜側の低緯度領域ではプラズマ圏の収縮が顕著であり,過去の観測結果とも一致することが確認された。
また,撮像データの詳細な解析により,プラズマ圏の外縁部の位置が時間とともに変動している様子も明らかになり,磁気圏環境の変化に応じたプラズマ圏の動態を捉えることができたという。
研究グループは,この成果は,超小型深宇宙探査の科学利用における重要なマイルストーンとなり,今後の宇宙惑星探査ミッションに新たな可能性をもたらすとしている。