京大ら,超解像顕微鏡法IRIS用プローブで分解能倍に

京都大学と米リーハイ大学は,細胞機能を担うタンパク質複合体を可視化するため,抗血清から作製した超解像顕微鏡法IRIS用プローブと画像解析PC-coloringを開発し,8つの内在性タンパク質の分子局在とそれらの分子複合体の分布を明らかにした(ニュースリリース)。

内在性タンパク質の抗体染色において,標的分子に結合した抗体は,その大きさ(12nm)に起因して,その近傍の分子への抗体の接近を空間的に妨害する。この不完全な標識が,複数の分子で構成される複合体の超解像可視化を難しくしていた。

ウサギ抗血清に最も多く含まれるIgGクラスの抗体は,抗原結合部位を2つもつため,一般的に抗原と強く結合する。IgG抗体をタンパク質分解酵素パパインで処理することで,抗原結合部位を1つにして,この親和性を弱めた抗体断片(Fab)を作製することができる。

抗血清から蛍光標識Fabの作製過程では,蛍光標識とFab化が,親和性に大きく影響を及ぼすため,研究グループは,このステップのプロトコルを詳細に検討した。その結果,抗体を抗原ビーズに結合させ,抗原結合部位を保護した状態で,蛍光標識することで,非特異的な結合の少ない蛍光抗体を得ることができた。

この蛍光抗体からFabを作製し,さらに再精製することで,非特異的な結合が少なく,標的に結合後,解離するFabプローブの作製に成功した。このFabプローブは,抗体が結合できる限界密度の3.6倍から6倍の高密度で内在性の標的タンパク質を標識した。

さらにこのFabプローブは,数十ミリ秒から数百ミリ秒間,標的に結合していた。そこで複数フレームに渡って同じ標的に結合しているFabプローブの蛍光中心点を平均化することで,標的の位置精度を高め,IRIS超解像画像の分解能を約2倍に改善したという。

研究では,抗血清由来の結合解離プローブによる8種の内在性タンパク質の可視化と,それらの分子局在を定量解析する新手法PC-coloringによる分子複合体のマッピングを可能にした。

その結果,膜受容体を細胞内に取り込む分子装置であるクラスリン被覆部位の縁で,上皮成長因子受容体(EGFR)を外側に配置した層状の分子複合体を発見した。これは,EGFRをクラスリン被覆部位へリクルートする分子複合体の構成を示唆するという。

研究グループは今後,この手法によって,細胞内の様々な分子複合体の実体が明らかになることが期待できるとしている。

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