東京科学大ら,細胞の局所環境の温度計測法を開発

東京科学大学と九州大学は,極性応答により過去に例のない大きな発光波長変化を示すソルバトクロミック蛍光色素を設計し,温度変化による微小な極性環境の差を蛍光で読み取り,高い精度で温度測定が可能な新概念の分子温度計を開発した(ニュースリリース)。

蛍光温度測定は,外部から非接触で高精度の温度センシングが可能なため注目を集めている。蛍光温度計(FT)として,蛍光の波長・強度・寿命などの温度応答性を利用した有機分子,量子ドット,高分子ミセルなどがこれまでに開発されてきたが,温度測定が可能な分析対象はまだ限定的だった。

一方,近年,ミトコンドリアの熱産生のような生命現象における温度変化の連続観察の重要性が言われており,高い空間分解能,分析対象物への非侵襲性,発光機能の調整の観点から,分子量の小さな単一の発色団の有機分子を用いた温度測定が適切と考えられている。

また,分析方法として,単なる蛍光強度の変化ではなく,特定の二つの蛍光波長での蛍光強度比を用いるレシオメトリックな分析が望ましいとされる。レシオメトリックな分析は濃度や励起光強度の影響を受けないという特長を持つが,温度測定のためには,選択した二つの蛍光波長において異なる蛍光強度変化を示す必要がある。

さらに,従来の分子温度計の大半は,ローダミンBのように,温度が上昇すると蛍光強度が減少する「負の温度効果」を示す色素が用いられてきた。温度上昇時の感度の向上には,温度上昇により蛍光強度が高まる「正の温度効果」を利用することが望ましく,そのためには温度上昇による内部転換に打ち勝つ必要がある。

しかしながら,①分子量が小さい,②特定の二つの波長で蛍光強度変化を示す,③温度上昇時に内部転換をしない,といった条件を満たす分子の探索は困難だった。

研究では,光の生体透過性が高い赤色領域で発光する色素を開発するために強い電子吸引性基であるトリフルオロアセチル基を用いることで,過去に例のない大きな色調と発光強度の変化を達成した。この色素を用いると,温度上昇時に溶媒の極性が僅かに低下する現象を,大きな蛍光スペクトルと強度の変化で可視化できるという。

そして,蛍光スペクトルの二点の蛍光強度比を分析することができ,バイオイメージングで理想的とされる高い感度(1.5%/℃)と分解能(<0.1℃)での温度測定を実現した。さらに,細胞の液滴の温度測定にも成功した。

この分子温度計は,優れた高い空間分解能,非侵襲性,分子設計の容易さから,研究グループは,蛍光温度計のスコープの大きな拡大と未知の生命現象の解明への貢献が期待されるとしている。

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