京都大学とリガクは,リンイオンから成る原料分子の固体にレーザー光を照射することにより特殊な化学反応を引き起こす新しい製造技術を開発,このレーザー合成技術を用いて従来困難であった極性構造を持つ新しいリン同素体の開発に成功した(ニュースリリース)。
リン(P)は最大で5個の価電子を持ち,多様な分野で活用される元素。N型シリコン半導体のドーパントやDNAのリン酸成分,電池や触媒材料として重要であり,白リン,赤リン,紫リン,黒リンの4種類の同素体が知られている。これらの同素体は対称な分子構造を持ち,電気を生じる極性を有していないため,エネルギー応用可能な極性構造を持つ新しいリン同素体の合成が求められていた。
従来,気相熱反応法ではランダムな分子配向の制御が困難であり,理論的に予測されていた極性構造を持つリン同素体の合成は成功していなかった。これに対し,研究グループはレーザー光を用いる新たな製造技術を開発し,極性分子構造を持つ新しいリン同素体「オレンジリン」の合成に成功した。
この技術では,緑色レーザー光(532nm)を二次元的にスキャンして非晶質固体リンイオン原料(Na2P16)を処理することで,橙色のフィルム状生成物を得た。
生成機構の解析により,①光熱により非晶質固体中で原料分子が移動・配列しイオン結晶を形成,②光エネルギーが特殊な化学反応を誘起して隣接する分子が方向性を持って連結(トポケミカル重合),③微量酸素と反応して余分なリンが取り除かれる(転移反応)というプロセスで合成されることが明らかになった。
さらに,三次元電子線回折装置を用いた分析により,この生成物がリン五員環が一方向に繋がった中空構造を持つことを確認し,これまで合成できなかった極性分子構造を持つ新しいリン同素体であることを実証した。
オレンジリンは,圧力を加えると電気抵抗が劇的に変化するピエゾ抵抗効果を示し,高い性能を有する材料であることが判明した。これにより,エネルギー変換やセンサー分野での応用や,その極性構造により,発電機能を持つエネルギー材料としての利用も期待されるという。
研究グループは,レーザー光を利用したこの製造法は,従来の気相熱反応法での課題を克服し,他材料における極性構造形成のプラットフォームとなる可能性があるとしている。