理化学研究所は,ハイスループットで簡便なマウス臓器まるごとの透明化,染色,3Dイメージング,データ解析手法を開発した(ニュースリリース)。
組織や臓器レベルの生命現象を細胞レベルで理解するには,従来の平面的・断片的な2D画像で得られる情報では限界があり,立体的・網羅的な3D画像による高品質データ解析への移行が,バイオ医学研究を大きく進展させると期待されている。
研究グループは今回,簡便かつ並列処理可能な透明化プロトコルの開発を行なった。これまでは,一つのサンプルを一つのチューブに入れ,透明化液や洗浄液を合計20回近く交換する必要があり,サンプル数が多くなると溶液交換に膨大な時間がかかるため,大規模な研究に理研が開発した透明化技術CUBICを用いることは困難だった。
そこで,細胞培養で一般的に使用する6ウェルプレートに,3Dプリンターで作成した透明化用のインサートデバイスを入れることで,1プレートにつき6サンプルを並列に作業できるようにし,溶液の交換も1サンプル当たり4~5倍程度の高速化を実現した。
また,以前に研究グループが開発した低倍率/広視野化した高速の光シート顕微鏡を用いることで,マウスの脳や肺,心臓,腎臓などの臓器全体の3D蛍光画像を迅速に撮影できるようになった。さらに,脱色処理を追加することで,眼球のような色素が多い組織もこのプロトコルによる透明化が可能になった。
研究グループは,光シート顕微鏡で得た3D画像から細胞を検出するプログラムを作成し,クラウドベースでマウス全脳の定量解析ができるCUBIC-Cloudに適用可能な形式に変換した。パイプラインの実施例として,中枢神経系に作用する薬剤を投与したマウス脳を取り出し,透明化,免疫染色,撮影,細胞検出,定量解析を実施し,全脳に対する薬剤の影響の可視化を試みた。
免疫染色は神経の活動マーカーであるc-Fos抗体を用いた。c-Fos陽性細胞を検出してCUBIC-Cloud上で解析を行なうことで,マウス全脳のどの神経細胞が活性化し,どの領域で薬剤の投与有無による差が見られるかを解析することに成功した。これにより,今回の研究で開発した透明化から解析までのパイプラインが,中枢神経系に対する薬効を評価できることが実証できた。
研究グループは,これまでの組織切片を使った2Dから,臓器まるごとの3Dのバイオロジーへ移行していくことで,創薬研究や臨床研究を含めてさまざまな分野での研究が効率化されるとしている。