東京大学発ベンチャーで,光量子コンピューターの開発を目指すベンチャーOptQCは9月17日,設立に関する記者会見を都内にて開催し,事業計画について説明した(会社HP)。
ムーアの法則の限界やエネルギー消費の観点から情報処理技術は今後約10年で限界を迎え,その後は減速する可能性が指摘されていることから,これまでのコンピューターとは全く異なる原理で動作する,量子コンピューターの実現が期待されている。
同社は光パルスを量子ビットとして用いる光量子コンピューターの実機を製造できる技術を世界で唯一持つ。光量子コンピューターは極低温や真空といった特殊な環境が不要で,大規模化が容易,光ファイバーを用いるので通信との親和性が高いといった特長がある。
同社は今後の計画として,まず1号機を産業技術総合研究所の量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター(G-QuAT)に構築する。仕様は100量子アナログ入力,100MHzクロックで,用途として最適化ソルバ,ニューラルネットワークを想定する。
2025年4月に構築を開始し,25年度中に完成,2026年から商用利用の開始を目指す。また,2028年には高速性に特化した2号機,2029年には量子性に特化した3号機の構想も予定している。
同社は東京大学古澤研究室のスピンオフで,取締役CEOには同研究室出身の高瀬寛氏が務める。また取締役には同研究室教授の古澤明氏,技術アドバイザーには同じく助教のアサバナント・ワリット氏が就任している。
なお,オプトロニクス社では,同社CEO高瀬寛氏と技術アドバイザー アサバナント・ワリット氏らが講師を務めるWEBセミナー「光量子コンピューター実用化の展望とその技術」を2024年10月7日(月)~10月11日(金)に開催する。同社の技術的概要についてはこちらで詳しく学ぶことができる。
【解説】量子コンピューターは一般のコンピューターとは違い「量子ビット」を用いて計算を行ないます。現在,この量子ビットを巡って様々な方式が検討されています。注目が大きいのは超電導回路を量子ビットとして用いる方式で,IBMの製品が日本の大学や研究機関に設置されるなど,量子コンピューター研究の基盤となりつつあります。
ただし,量子コンピューターが正確な動作を行なうためには,100万とも言われる量子ビットが必要となります。昨年IBMが発表した量子プロセッサの量子ビット数はまだ1121で,その規模の拡大が最大の課題ですが,超電導方式は極低温で動作するため巨大な冷凍機を必要とし,並列機な拡大には限界があるとされています。
一方,OptQCの光子を量子ビットとして用いる光量子コンピューターは,同じ光学系内で光子をループさせることで,理論的には体積を増やさずに量子ビット数を増やすことができます。また,光子は光ファイバー内を伝搬するので,そのまま通信網へと接続が可能なことも強みです。
今回OptQCが創業した理由の一つに,このままIBMなど海外勢の主導で研究開発が進むことで,将来100兆円とも言われる市場へ日本が乗り遅れることの危機感があります。光量子コンピューターの実機の製造技術を持つ稀有な存在である同社がいち早く市場参入することで,量子コンピューターの勢力図が大きく書き換わるかもしれません。
記事中にもありますが,弊社ではOptQC CEOの高瀬寛氏と,技術アドバイザーであるアサバナント・ワリット氏らが講師を務める「光量子コンピューター実用化の展望とその技術」を開催します。光量子コンピューターは繊細な多数の光学素子やデリケートな光源からなります。その仕組みを知ることは,来るべき超巨大市場への足がかかりとなるでしょう。(デジタルメディア編集長 杉島孝弘)