東工大ら,最高クラスの酸素イオン伝導体を発見

東京工業大学,英インペリアルカレッジロンドン,高エネルギー加速器研究機構(KEK)は,従来の材料を凌駕する世界最高クラスの酸化物イオン伝導度(酸素イオン伝導度ともいう)を示す新しい酸化物イオン伝導体(酸素イオン伝導体,あるいはO2−伝導体)を発見した(ニュースリリース)。

酸化物イオン伝導体は,固体酸化物形燃料電池,酸素分離膜,触媒およびガスセンサーなどに幅広く応用できる。

高い酸化物イオン伝導度は,特定の結晶構造においてのみ発現するので,今まで酸化物イオン伝導の報告が殆ど無い新しい結晶構造グループに属する高酸化物イオン伝導体を発見すれば,クリーンで効率が高く安価な燃料電池の実現につながると期待されている。

ペロブスカイト関連化合物は大きく4種類のグループに分類できる。そのグループの一つが,六方ペロブスカイト関連酸化物であり,多種多様な結晶構造と材料特性を示す。

ペロブスカイト関連化合物には多くの酸化物イオン伝導体の報告があるが,六方ペロブスカイト関連酸化物の酸化物イオン伝導体は極めて稀であり,イオン伝導体としてはあまり注目されてこなかった。

研究グループは今回,Ba7Nb4MoO20に着目することにより,新しい酸化物イオン(O2−)伝導体Ba7Nb3.9Mo1.1O20.05を発見した。この新型イオン伝導体は,高温かつ広い酸素分圧範囲で,非常に安定であることがわかった。

従来の高酸化物イオン伝導体の多くは希土類,ビスマス,鉛,あるいはチタンを含む酸化物であり,還元雰囲気における安定性,毒性あるいは使える資源の量に難があった。Ba7Nb3.9Mo1.1O20.05は,これらの元素を含まず安定性,安全性および資源確保の点で優れているという。

さらに酸化物イオン伝導度が高くなる高温での結晶構造と酸化物イオンの拡散経路を実験により解明した。その結果,六方ペロブスカイト関連酸化物の結晶構造内の本質的な酸素欠損層の原子の隙間に存在する酸素(格子間酸素)とイオン移動経路の形成が高いイオン伝導度の原因であることがわかった。

研究グループはこの成果により,六方ペロブスカイト関連酸化物の研究開発が活発になるとともに,新たな応用に向けた道を切り拓くとしている。具体的には,固体酸化物形燃料電池や酸素濃縮器の高性能化や,新しい酸化物イオン伝導体や電子材料の開発を促進すると考えられるという。

さらに,六方ペロブスカイト関連酸化物のイオン伝導体の科学が発展し,今後他の新酸化物イオン伝導体が発見されると期待されるとしている。

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