東大,レーザーで強い超伝導を実現する理論を提唱

東京大学の研究グループは,強いレーザー光を電子間相互作用の強い物質(強相関物質)へ照射することで,その物質における超伝導性が熱平衡系では達成することができないほど増大することを,スーパーコンピュータを駆使した理論的な考察により見出した(ニュースリリース)。

物質が超伝導になる温度(転移温度)を上げる研究において,続々と高い転移温度を持つ物質が発見され,大気圧下での最高転移温度は約-140℃にまで達している。高温超伝導が発現するメカニズムには多くの謎が残されているが,高温での超伝導体を実現するには,電子の空間分布が不均一状態を作らないようにしながら,電子間に有効的に働く引力を制御し強めることが重要となる。

一方,光レーザーを利用した非平衡下において転移温度を制御しようという試みも行なわれており,光をある銅酸化物にあてて平衡系では達成できない格子構造を実現させたことにより,短時間ではあるものの,室温領域において超伝導的な性質が現れるという実験が報告されている。この研究は,非平衡性を積極的に利用することで室温超伝導を実現しうるという可能性を指摘している。

今回の研究では,相関電子系において,非平衡性を利用した新たな超伝導増強の可能性を提示することを目指した。研究グループは,銅酸化物群に対する最も単純な理論模型での電子ダイナミクスについて,電子間相互作用の効果を精度よく取り込める数値計算手法を開発し,それを用いた数値シミュレーションを実行した。

研究ではまず,光を照射する前の平衡下で,超伝導と不均一性が相互作用の強さにどう依存するのかを調べた。その結果,電子の空間分布が一様な状態では相互作用を強めていくと急激に超伝導が増大することを確認した。一方で,この強い超伝導状態は超伝導が抑えられた不均一状態よりもエネルギーが高く,仮に引力の強い物質を作成できても,結局は電子が不均一になり超伝導が抑制されることを意味する。

一方,強い光を物質に照射すると電子間の相互作用が相対的に強くなることが先行研究で指摘されている。つまり動的に相互作用を相対的に強めることができる。この非平衡効果によって相互作用の強さを制御した場合,強い光照射により,すぐに不均一状態に落ち込むことなく,超伝導が増大することを見出した。

この現象は,光による電子の加速が,静的に固まった不均一状態を破壊する一方,光による引力の増大が電子のペア形成に効く,という複合的な効果によって起きたものと考えられるという。

今回,熱平衡下で超伝導を抑制してしまう電子の不均一性を光照射によって回避し,強い超伝導を達成できることを数値シミュレーションによって示した。今後,この理論的予言を実証することが望まれる。さらに,どのような光を照射すれば物質の状態を制御する事が出来るかという指針と,それに基づいた新規光デバイス応用にも期待されるとしている。

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