東北大ら,高輝度放射光で超伝導体中の電子振動解明

著者: 梅村 舞香

東北大学,量子科学技術研究開発機構(QST),兵庫県立大学,産業技術総合研究所,物質・材料研究機構は,−163℃で超伝導を示す銅酸化物超伝導体のプラズマ振動の性質を解明した(ニュースリリース)。

超伝導とは,ある特定の温度以下で金属の電気抵抗がゼロになり,電気がスムーズに流れるようになる現象。多くの超伝導体はおよそ−200℃以下という非常に低い温度でしかこの性質を示さないため,より高い温度で超伝導を示す物質が望まれる一方,超伝導の発現機構と超伝導転移温度を高める指針は解明されていない。電気の流れや振動を詳しく調べることで,これらの課題を解決する手がかりが得られる可能性がある。

今回研究グループは,高輝度放射光施設における共鳴非弾性X線散乱(RIXS)装置を用いて,三層系銅酸化物Bi2Sr2Ca2Cu3O10におけるプラズマ振動を高分解能で観測することに成功した。RIXSは,軟X線を試料に当て,跳ね返ってきた光のエネルギーを調べる手法で,電子の振動や結晶格子の振動など,物質内部で生じるさまざまな波の性質を調べることができる最先端の実験手法となっている。

RIXS測定には,3GeV高輝度放射光施設NanoTerasuの共用ビームラインで新たに開発された2D-RIXS装置と台湾にある放射光実験施設Taiwan Photon Sourceのビームライン41Aを用いた。今回の測定に用いた Bi2Sr2Ca2Cu3O10の良質単結晶試料は産業技術総合研究所で合成された。この物質の単結晶を合成できる研究グループは世界でも限られている。

RIXS測定の結果,CuO2面を流れる電荷の集団的な振動に対応するプラズマ振動のピークが明瞭に観測された。2つの施設で得られたRIXSスペクトル形状は一致しており,2D-RIXS装置の光学系が設計通り作動していることが実証された。

試料角度を回転させてプラズマ振動のピークのエネルギーと運動量の関係(分散関係)を詳細に調べると,運動量ゼロで有限のエネルギーを持ち,単層系銅酸化物の場合とは異なっていることがわかった。この特異なプラズマ振動は,CuO2面を流れる伝導電子に働く長距離のクーロン反発力や,電子の動き方に関係していると考えられ,三層系での高いTCと関連している可能性があるという。

研究グループは,この研究成果により,高温超伝導や磁性材料の機能のメカニズムの解明が期待されるとしている。

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