事業のフォーカスの中で,将来を見据えて盛り立てるのが研究の役割

バブル崩壊後のテレコム市場は大変な状況でしたが,将来を見据えた技術開発ということで,ハイパワー化のキ ーとなるOFSのダブルクラッドファイバーレーザー技術と当社の半導体レ ーザーを組み合わせるファイバーレーザーの研究開発を2004年から始めました。

幸いにしてNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の助成事業の採択も受け,また塚本雅裕先生(大阪大学)ともお会いし,一緒に始めることで,より開発のスピードを上げることができました。

私は研究と事業開発の両面からファイバーレーザーの新たな展開を見てきましたが,これまでのテレコム分野とは異なる,金属加工などの用途探索を進めました。加工にはキロワットクラスの出力が必要ということで,アプリケーション開発も含めてファイバーレーザー事業を広げてきたというわけです。

─研究開発本部長に就任され,その役割をお聞かせください

当社にはメタル,ポリマー,フォトニクス,高周波の4つのコア技術があります。これらのコア技術に沿った技術軸で研究をすることを目的に,この4月から研究開発本部内で,サステナブルテクノロジー研究所,マテリアル研究所,エレクトロニクス研究所,フォトニクス研究所の4つの拠点が再編され,私はこれらの研究開発を統括して見る立場になります。

研究開発本部には超電導製品部も組織されています。国内では低温の超電導製品を開発しています。また,アメリカにSPI(SuperPower Inc.)という関連会社があるのですが,この会社では高温超電導製品を手掛けているので,当社では高温も低温も両方やっているというのが,特色です。

当社ではグループ全体が2030年のありたい姿として,『古河電工グループ ビジョン2030』を掲げています。情報,エネルギー,モビリティが融合した社会基盤を創造するというもので,ここにはライフサイエンスなど新領域も含まれています。これを目指し,中期経営計画2022 ~2025(25中計)も示しています。

当然,現在の事業から2030年に向けてフォワード・ルッキングした部分と,2030年からバックキャストした部分の両面の着地点が2025年にあたるため,25中計は一つのマイルストーンになっています。

まず,情報の領域ではBeyond 5Gが一つのキーワードになりますが, IOWN構想に賛同して力を入れています。光電融合が注目されていますが,今後のコストダウンやスピードの進展を考えると,シリコンフォトニクスが重要になると思います。受発光素子のうち,受光素子は良いのですが,発光素子の方はシリコンでは難しいので,実装技術なども重要な開発テーマにな っていると思います。また量子中継伝送の分野でも今後フォトニクスの技術が必要になってきます。

さらにエネルギーレーザーという考え方があります。レーザーを使えば,ドローンをはじめとした飛行体へのリモート給電をすることが可能ですし,高出力の光増幅技術による衛星間光通信なども期待されます。当社技術の宇宙への展開に関しては,3月15日に東京大学大学院工学系研究科・教授の中須賀真一先生と共同で,社会連携講座を開設したことを発表しました。

ネルギー領域は,2050年のカーボンニュートラル実現という目標に対して,再生可能エネルギー向け電力ケーブルの開発を進めております。その中でフォトニクス技術は保守メンテに必要なセンシング技術の活用が期待されています。

モビリティ領域では,またCASE (Connectivity, Autonomous, Shared&services, Electric)という流れの中で,車載光伝送やV2X(Vehicle to everything)など,車に係わる通信技術でも,フォトニクスの重要性が高ま ってくると考えております。

新領域で取り組むライフサイエンスには,フォトニクス技術の適用分野が多数あります。一つには光分析として分光器による診断機器があり,体外から植え込み型医療機器の位置を目視確認できるテルミノという技術も展開し始めています。

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