光エレクトロニクスの未来 ─若手研究者への技術伝承がカギ

著者: admin

◆天野 浩(アマノ ヒロシ)
名古屋大学 未来材料・システム研究所 教授

1983年 名古屋大学工学部卒業,
1985年 名古屋大学大学院工学研究科博士課程前期課程修了,
1988年 名古屋大学工学部 助手,
1989年 工学博士(名古屋大学),
1992年 名城大学理工学部 講師,
1998年 名城大学理工学部 助教授,
2002年 名城大学理工学部 教授,2010 年 名古屋大学大学院工学研究科 教授,
2015年 名古屋大学未来材料・システム研究所/未来エレクトロニクス集積研究センター 教授。
2014年ノーベル物理学賞受賞。

日本発の光デバイスの一つ,青色発光ダイオードは3名の研究者によって発明された。名城大学・赤﨑勇氏,名古屋大学・天野浩氏,日亜化学工業・中村修二氏(現・カリフォルニア大学サンタバーバラ校)で,2014年のノーベル物理学賞を受賞している。青色発光ダイオードは,その後の世界を照らし続ける革新的な発明として高く評価されている。

今回のインタビューでは,青色発光ダイオードの発明者の一人,天野浩氏に登場いただいた。天野氏の研究は応用を見据えたもので,社会的課題の解決を軸としていると言える。インタビューでは最近の研究を紹介していただき,光エレクトロニクスの未来について語っていただいた。

─はじめに,最近の研究についてお聞かせいただけますか?

最近の研究成果で言うと,深紫外レーザーダイオードの室温連続発振です。これは旭化成さんと名古屋大学の共同研究の成果です。旭化成が買収したアメリカのCrystal IS製の窒化アルミニウム(AlN)基板を使用できたことがポイントの一つですが,C-TEFs(名古屋大学エネルギー変換エレクトロニクス実験施設)のクリーンルームを使うことで,非常に精度よくレーザーダイオードの加工ができたというのも大きかったですね。

最終的に室温連続発振を実現できたのは,我々が一方で手掛けているパワー半導体デバイスの技術を上手く活かしたことも大きいです。初期の頃は,真四角のリッジ導波路を作っていましたが,この構造では室温連続発振には至りませんでした。何故なら窒化アルミニウム系というのは特に硬い材料なので,ちょっと加工しただけで,中の応力分布がすごく変わるからです。

具体的には,特にカットした端の所の応力が10 GPa程度に達し,それが起点となって基底面転位と思われる欠陥がリッジの中に浸透していき,室温連続発振しませんでした。それでは,それを斜めにすれば良いのではないかということで,導波路を斜めに切る技術を採用したわけですが,このプロセスは実はパワー半導体デバイスの作製において電界を緩和するために行なわれていました。この技術を深紫外レーザーダイオードに採用することで,室温連続発振に至ったというわけです。

─深紫外レーザーダイオードの室温連続発振の成果も日本初,ひいては世界初といっても良い
のでしょうか?

はい。未だに他国では実現されていないと思います。日本では名城大学でも取り組まれています。今回の実現においてもう一つ良かったのは,やはり分極ドーピングです。キャリアを活性層にたくさん注入しなければレーザーは発振しませんが,窒化アルミニウムは絶縁体ですので,不純物による伝導度制御ができませんでした。しかしながら,圧電性がある材料であることを上手く利用したというのも,室温連続発振の成功につながったと思います。

─今後の開発について教えてください。

まだパワーが数10 mWなので,例えば,検査計測に利用できる程度です。波長は270 nmですので,色々な分子を励起することはできますが,現状では少しパワーが足りないので,出力を高めて行く必要があります。さらに1 Wを超えるくらいまで実現できれば,加工用にも使うことができるでしょう。波長が短いので,レンズ系さえうまく構成できれば,非常に微細な加工が実現できるようになります。ハイパワー化に向けては今,旭化成さんと研究室の若い人たちが頑張って取り組んでいます。

─弊誌のメインのテーマとは少し離れますが,深紫外レーザーダイオードの室温連続発振の成功
において,パワー半導体デバイスの作製プロセスの一部を活かされたとのことで,パワー半導体
デバイスの開発の現状をお聞かせいただけますか?

現在,ローパワーのタイプが多く販売されるようになりましたが,多くはGaN-on-Siliconでトランジスタを作 ってというものですので,電力で言うと,100 Wくらいまでしか作れません。もちろん,マーケットサイズが大きいので市販されているわけですが,我々が目指しているのはGaN基板を用いた,さらにハイパワーなもので,電気自動車(EV)のインバーターに使える10 kWや20 kWのトランジスタです。これも日本発の技術を目指して取り組んでいます。

現在,我々が主に取り組んでいるのは,東北大学で開発され,三菱ケミカルさんと日本製鋼所さんが社会実装を目指しているアモノサーマル法を基本としたGaN基板,及び大阪大学で開発され豊田合成さんや日本ガイシさんが社会実装に取り組んでおられるGaN基板を用いた,超ハイパワーなトランジスタです。この基板は1,000 V以上の電圧をかけてもリークしないですし,欠陥がほとんどありませんので,安心して使うことができます。その開発は今まさに佳境にあります。

トランジスタといっても,色々な形状があります。横型のいわゆるHEMT構造は開発が比較的進んでいて,例えば,三菱電機さんが船舶用のレーザーを作ったり,豊田合成さんがパワーコンディショナーを作ったりしています。我々は自動車のインバーターに搭載するのをターゲットの一つにしているので,縦型のMOS構造にする必要があります。そのための技術開発を行なっているところです。

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