日本が実用化の先導役となるか!?注目のペロブスカイト太陽電池開発動向

◆宮坂 力(ミヤサカ ツトム

桐蔭横浜大学 医用工学部 特任教授

1981年東京大学大学院工学系研究科修了(工学博士)。

富士写真フイルム㈱足柄研究所主任研究員を経て2001年より桐蔭横浜大学大学院工学研究科教授。

2005年~2010年に東京大学大学院総合文化研究科教授を兼務。

2004年にペクセル・テクノロジーズ㈱を設立,代表取締役。東京大学先端科学技術研究センター・フェロー。

受賞は,英国Rank賞(2021年),日本化学会賞(2017年),市村学術賞(2020年),など。

ペロブスカイトと呼ばれる結晶構造を持つ材料を用いた太陽電池が注目されている。このペロブスカイト太陽電池を発明したのは,桐蔭横浜大学 医用工学部・特任教授の宮坂力氏で,日本発の光技術としてその実用化が期待されている。

ペロブスカイト太陽電池は有機系太陽電池の一種で,薄膜化が可能であり,柔軟性に優れるため,設置場所を選ばずに発電性能を得ることが可能となる。ペロブスカイト太陽電池が次世代型太陽電池として特に注目されたのが,エネルギー変換効率が発明からわずか10 年でシリコン系太陽電池と同等に達成されたこと。宮坂氏は前職の富士フイルム時代に色素増感太陽電池の研究開発を行ない,その流れの中でペロブスカイト太陽電池の研究開発をスタートさせたという。2004年には自身が代表を務めるペクセル・テクノロジーズという光電変換技術の実用化に取り組むベンチャーも設立しており,色素増感太陽電池組み立てキットの製販事業を展開している。

今回のインタビューでは,ペロブスカイト太陽電池の研究開発の舞台裏について,宮坂氏に語っていただいた。宮坂研究室から脈々と受け継がれていくペロブスカイト太陽電池の研究開発だが,産業化においても日本が先導役になることを期待したい。

─はじめに,ペロブスカイトとは何かというのを教えていただけますでしょうか?

ペロブスカイトとは結晶構造の名前です。1839年にロシアのウラル山脈で黒光りする鉱石が発見され,それを分析したらチタン酸カルシウム(CaTiO3)であるということが分かったわけですが,その構造というのが珍しいものでした。ABO3構造だったのですが,これに名前を付けようとなりました。ロシアの鉱物収集家のペロフスキーの名前にちなんで,ペロブスカイトと名づけられたのです。

その後は,ペロブスカイトを使った産業向けの材料がたくさん開発されました。多くは金属系の酸化物です。耐熱性に非常に優れるものですから,代表的なものとしてはチタン酸バリウムのコンデンサがあります。また,インクジェットプリンターのヘッドにはピエゾ素子が使われていますが,これにもペロブスカイトが用いられています。

ペロブスカイトといえば,太陽電池が出現するまでは,コンデンサやピエゾ素子が有名だったと言えます。現在は,ペロブスカイトとネット検索すると太陽電池がトップに出てくるくらいに市民権を得たのですが,太陽電池で使うペロブスカイトはヨウ素や臭素といったハロゲンがくっ付いているので,先ほどのABO3というのがABX3になります。このXというのがハロゲンです。

ハロゲンのような強いマイナスイオンが結晶に入るとイオン性結晶になり,溶解性を持ちます。たとえば塩化ナトリウムがそうです。その他にはカラー・モノクロ写真の現像で用いられるハロゲン化銀があり,ヨウ化銀や塩化銀などのハロゲン化合物もペロブスカイトではありませんが,イオン結晶です。ペロブスカイトのイオン結晶を溶かしたものをインクにして塗って乾かすと,ペロブスカイトの結晶が析出します。その析出した結晶膜が太陽電池に使える優秀な半導体になるというわけです。

今では非常に薄い1 μmもない膜が光を吸収すると非常に高い出力と電圧を得ることが実現できています。電圧はエネルギー変換効率を左右するものですが,シリコンは得られる電圧が0.7(バンドギャップ1.1 eV)なのに対し,ペロブスカイトでは1.2(バンドギャップ1.5 eV)という高い出力とエネルギー変換効率を得ることができます。

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