自然な光を用いる瞬間カラー多重ホログラフィーと蛍光顕微鏡応用

3. 自然な光を用いる瞬間カラー多重ホログラフィーの実験

図2 自然な光を用いる瞬間カラー多重ホログラフィーの実験光学系。
図2 自然な光を用いる瞬間カラー多重ホログラフィーの実験光学系。

単一露光のカラー多重3次元イメージング能力を示すために,図2の光学システムを構築した。

ハロゲンランプを光源に備える倒立型光学顕微鏡を用い,USAF1951テストターゲットのGroup5,lines1,2を試料とした。倍率40とし,NA0.95の顕微鏡対物レンズと,透過波長域520-540nmと618-638nmのマルチバンドパスフィルタを介して試料の拡大像を空中に結像させ,それを被写体の一つとした。

また,異なる深さに,図2内に示す,透明フィルムに黒線を引きカラーフィルムを貼り合わせたものを置き,物体光波に3次元情報と波長情報を持たせた。図2では,視野調整のためのレンズと,自己干渉計形成のための偏光子と2枚の複屈折レンズ,そして偏光感受性を有する透明な空間位相変調素子と偏光子が接着されたモノクロイメージセンサで光学系が構成される。偏光子と複屈折レンズでインコヒーレントホログラフィーの系をなし,透明な空間位相変調素子に波長依存性を与えることで計算コヒーレント多重方式に必要な複数のホログラムを1回の露光で得る。

今回,空間位相変調素子には,フォトニック結晶のアレイを採用した。フォトニック結晶を用いることで,微小な波長板を実現でき,位相変調量の波長依存性や,可視波長域における高い透過率を得られる。系の詳細においては参考文献10)も併せて参照されたい。。

図3 実験結果。矢印は黒線の書かれた個所を示す。
図3 実験結果。矢印は黒線の書かれた個所を示す。

実験結果を図3に示す。図3(a)の通り,カラーフィルターを用いずに,デフォーカスした1枚のカラー多重ホログラムを得た。単一露光位相シフト法に基づきモザイク状のホログラムを得るため,計算機内にてデモザイキング処理を施す。その後,計算コヒーレント多重方式の信号処理により緑色と赤色の波長域における物体光波を分離抽出する。そして,回折積分の計算を施しカラー合成し,図3(b),(c)を得た。図3(b),(c)より,自然な光を用いて,異なる深さにおける合焦像と,波長の情報が,1枚のカラー多重ホログラムから像再生されることが示された。

4. 瞬間カラー多重蛍光ホログラフィック顕微鏡への応用

図4 構築した瞬間カラー多重蛍光ホログラフィック顕微鏡システムの概略。
図4 構築した瞬間カラー多重蛍光ホログラフィック顕微鏡システムの概略。

蛍光顕微鏡への応用可能性を調べるために,図4の光学システムを構築した。構成としては,市販の倒立型蛍光顕微鏡と,図2の自己干渉光学系からなる。特徴として,励起光をカットするダイクロイックミラーを蛍光顕微鏡内に挿入するが,複数波長バンドの蛍光は物理的に分離されることなく,1台のイメージセンサに導入される。ダイクロイックミラーを介して,波長500nm以下の励起光を試料に照射し,波長510nm以上の連続波長スペクトルの蛍光のみが当該ミラーを通過する。

蛍光試料にはTb,Euの錯体を用い,3次元空間に疎に分布させた。蛍光の中心波長はそれぞれ545nm,618nm,各波長幅は10nm以内であった。図5に実験結果を示す。像再生手続きは3節と同様である。異なる深さに分布する錯体に合焦でき,波長情報を介して種類の識別も示された。以上より,瞬間カラー多重3次元蛍光顕微鏡への応用例が示された。

図5 蛍光顕微鏡応用の実験結果。(a)-(d)波長618nm,(e)-(h)波長545nmの光波における再生像。(a),(e)から見て深さ差,(b),(f)3μm,(c),(g)6μm,(d),(h)9μm。赤,緑色の円内に試料の像。
図5 蛍光顕微鏡応用の実験結果。(a)-(d)波長618nm,(e)-(h)波長545nmの光波における再生像。(a),(e)から見て深さ差,(b),(f)3μm,(c),(g)6μm,(d),(h)9μm。赤,緑色の円内に試料の像。

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