偏光ドーナッツビームを生成するワンチップレーザ

3. フォトニック結晶リング共振器レーザ

図3 フォトニック結晶(PC)リング共振器レーザ(a)デバイス構造の模式図 (b)PC層の走査型顕微鏡像 (c)非対称性を有する格子点とそれを取り巻く電界および面垂直方向への回折
図3 フォトニック結晶(PC)リング共振器レーザ
(a)デバイス構造の模式図 (b)PC層の走査型顕微鏡像 (c)非対称性を有する格子点とそれを取り巻く電界および面垂直方向への回折

以上のように,長焦点深度・微小集光という新奇集光特性を実現するため,我々は,2010年に,径偏光・狭リング形状ビームを出射可能な単一素子レーザを発明した4, 5)図3にその概略図を示す。このレーザは,一般的な半導体レーザ構造である,クラッド層−活性層−クラッド層からなる構造の,活性層の極近傍にリング状の共振器上に1次元的なフォトニック結晶構造を配列した構造からなる(図3(a))。

電流は,このリング状の共振器に位置を合わせて作製されたリング形状の電極から注入され,リング状の共振器に隣接して設けられた電流狭窄溝によって,共振器にのみ電流が制限されるようになっている(図3(b))。共振器上に配列された1次元的なフォトニック結晶は,レーザビームを上方に回折する効果を有し,かつその格子点形状に非対称性を与えることによって,上方回折される偏光を1偏光に規定することができる(図3(c))。そのため,径偏光となるように,格子点を配列することで,径偏光・狭リング形状ビームをレーザの面上方に回折することが可能である。

図4 フォトニック結晶リング共振器レーザから得られる径偏光・狭リング形状ビーム
図4 フォトニック結晶リング共振器レーザから得られる径偏光・狭リング形状ビーム

図4にこの構造から得られるレーザビームの近視野像を示す。各点における発光波長も同時に示している。このように,狭リング形状のビームを得ることができ,また偏光特性が径偏光であることも確認された。さらに,このビームを用いて,集光特性を評価したところ,長焦点深度・微小集光特性が確認された5)

4. 変調フォトニック結晶構造による径偏光ビームの発生

前節で述べたように,我々は,フォトニック結晶リング共振器レーザを用いることで,径偏光・狭リング形状ビームの出射に成功した。しかしながら,この構造は,リング共振器を用いるため,共振器長が長くなり,光局在が生じやすく,大面積化による高出力化が難しい。そこで,我々は,2017年に,フォトニック結晶の2次元大面積共振効果を利用しつつ,径偏光ビームを含むあらゆる偏光ドーナッツビームを発生可能な新たなフォトニック結晶レーザ構造を発明した6)

この構造では,非放射性で2次元共振状態を形成するフォトニック結晶において,フォトニック結晶の格子定数の10%程度の振幅で周期的に位置変調を加えた変調フォトニック結晶構造を用いる。このような変調フォトニック結晶構造を用いたレーザは,これまで,レーザビームの出射方向制御に用いてきた7, 8)。ここで,変調フォトニック結晶構造が,変調の与え方によって,ビームの出射方向だけでなく,出射ビームの偏光をも制御可能であるという点に着目した。1素子中に空間的に連続的に変化するような変調を設計することで,径偏光ビーム,方位偏光ビーム,–1次偏光と呼ばれる偏光ビームの出射に成功した。

さらに,この設計を拡張することで,ドーナッツ形状のビームのみならず,狭リング形状のビームの出射も確認した。この構造では,変調設計により任意の偏光状態の制御と,ドーナッツ形状~狭リング形状のように強度分布をも制御可能である。また,フォトニック結晶の2次元大面積共振効果を利用するため,原理的に高出力化にも適した構造と考えられる。

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