ナノ精度コピーによる超高精度ミラーの量産化

2.ナノ精度加工・計測による超高精度ミラー作製の現状

図1 凹凸のある表面を光が反射したときの位相変化
図1 凹凸のある表面を光が反射したときの位相変化

古くから超精密加工の分野において,高精度なミラーの代名詞なのはX線ミラーである。X線は波長が10 nmよりも短い光である。そのためミラーにわずかな形状誤差が存在すると反射光の波面が乱れる。図1は,光がミラーを反射する様子を示したものである。光の表面からの入射角度をθ,形状誤差の高さをh,λを光の波長とすると波面誤差φは

となる。ここにX線の波長λを1 nmとし,反射可能な入射角度としてθ=20 mradを代入する。例えば,φが1/4となるhは,たった約6 nmとなる。φが1/4ということは,均一な入射波面が,凸のある場所を反射した後,1/4位相だけ部分的にずれることになる。1/4という数字は理想的な集光・結像を行うために必要な収差であり,これ以上になると設計どおりの分解能は得られない。したがってX線ミラーでは10 nmレベル以上の形状精度が必要となる。さらに,X線を集光・結像するためには形状は楕円などの非球面形状となる。

可視領域では球面レンズの組み合わせで収差を減らす工夫がされているが,X線領域では,反射率が低いために可能な限り光学素子の枚数を減らす必要があり,回転楕円や回転放物面の形状をもつミラーが必要となる。

図2 X線ミラーの作製例
図2 X線ミラーの作製例

こうした高精度なミラーは,ナノ精度の加工と計測を繰り返すことで実現されている1)図2はX線ミラーの作製例である。現在,SPring-8などの放射光施設ででは,400 mm長において,PV-2 nmの精度のX線ミラーが導入されている2)。このミラーは,加工としてEEM(Elastic Emission Machining)法3)が用いられ,形状計測には,MSI(Microstitching Interferometry)4)とRADSI(Relative angle determinable stitching Interferometry)5)が用いられている。高精度ミラーによりX線領域において7 nm集光という世界最小の回折限界集光6)やX線自由電子レーザへの導入により1020W/cm2といった世界最高強度のX線レーザが実現している7)

現在,EEM法に限らず様々なナノ精度加工技術がある。例えば,イオンビーム加工により1 nmの精度で高速に加工する例が報告されている8)。形状計測技術についても,干渉計や接触方式など様々な手法が提案されている。

同じカテゴリの連載記事

  • 高出力半導体テラヘルツ信号源とその応用 東京工業大学 鈴木左文 2024年04月09日
  • 半導体量子ドット薄膜により光増感した伝搬型表面プラズモンの高精度イメージング 大阪公立大学 渋田昌弘 2024年03月06日
  • 大気環境情報のレーザーセンシング技術 (国研)情報通信研究機構 青木 誠,岩井宏徳 2024年02月12日
  • 光の波長情報を検出可能なフィルタフリー波長センサの開発 豊橋技術科学大学 崔 容俊,澤田和明 2024年01月15日
  • 熱延伸技術による多機能ファイバーセンサーの新次元:生体システム解明へのアプローチ 東北大学 郭 媛元 2023年12月07日
  • 非破壊細胞診断のための新ペイント式ラマン顕微システム (国研)産業技術総合研究所 赤木祐香 2023年11月14日
  • 長波長光応答性酸窒化物光触媒の製造と水分解反応への応用 信州大学 久富 隆史 2023年11月06日
  • 柔軟モノリス型多孔体「マシュマロゲル」の内部散乱を利用した光学式触覚センサー (国研)物質・材料研究機構 早瀬 元 2023年09月26日