フレネル型構造を用いた液晶光偏向素子

図3 (a)櫛形電極模式図,(b)サンプル顕微鏡写真
図3 (a)櫛形電極模式図,(b)サンプル顕微鏡写真

次に,上記の結果をもとに,液晶偏向素子のサンプルを作製し,レーザ光の入射による偏向角度の測定を試みた。ITO電極を設けた厚さ0.7 mmのガラス板に液晶材料を挟んだ構造とし,一方のガラス板には,図3に示す櫛形の電極をパターニングとエッチングにより形成し,RFマグネトロンスパッタリングにより絶縁層と,ギャップを形成した高抵抗層を順次積層した。液晶材料はネマティック材(Merck社製,5CB,Δn=0.186)で,配向層として形成したポリイミド材には反平行方向にラビング処理を行った。

サンプルの外形や液晶層厚は,概ね従来型の液晶レンズ5, 9)と同一で,電極のパターンのみが異なる。図3(a)は,作製した櫛形電極パターンの模式図で,図3(b)はサンプルの顕微鏡写真を示す。フレネル構造の繰り返しパターンのピッチは333μmで,電極及び間隔の幅は,それぞれ40μm,10μmである。図3(b)の下方の,色が異なる部分は,高抵抗層を付加した領域を示す。また,液晶層厚に相当するサンプルセルの空隙部分の実測値は,30.5μmであった。

4. 偏向角の評価

作製したサンプルについて,偏光顕微鏡による干渉縞の観察と,波長635 nmのレーザ光の入射による,偏向角の評価を行った。サンプルのレーザ出射側にスクリーンを設け,サンプルとの距離を500 mmに設定し,櫛形電極に電圧を印加した場合の,出射レーザのスポット位置の変化から,偏向角を算出した。サンプルは,櫛形電極の長手方向が鉛直方向に,入射レーザの偏光方向はサンプルのラビング方向に,それぞれ一致するように配置した。

図4 偏向角評価結果と,偏光顕微鏡写真(a)電圧印加なし,(b)V1=3.5 Vrms印加,(c)V2=3.5 Vrms印加
図4 偏向角評価結果と,偏光顕微鏡写真(a)電圧印加なし,(b)V1=3.5 Vrms印加,(c)V2=3.5 Vrms印加

図4に,スクリーンにおけるレーザスポットと,同一の駆動条件(印加電圧)における干渉縞のパターンの偏光顕微鏡写真を示す。観察に使用したフィルタの波長は,568 nmである。電圧を印加しない状態を(a)に示し,3.5 Vrmsの電圧をV1,V2に印加した状態を,それぞれ(b),(c)に示す。(a)の状態ではビームは偏向しないため,レーザ光は直進し,顕微鏡写真には干渉縞は観測されず,櫛形電極の境界線のストライプのみが見られる。

これに対し,(b),(c)の状態では,レーザ光はサンプル素子への印加電圧の傾斜によって左右両方向に偏向し,ビームスポットが,図示した初期位置に対してずれる状況が確認できた。このずれ量と,サンプル-スクリーン間距離から算出される偏向角度は,tan–1(5.5/500)=0.63 度となった。この値は,手振れ補正に必要な偏向角の制御範囲±0.6度を満たしており,同機能に偏向素子を応用できる可能性が確認できた。

また,この状態では,電極間において略平行な干渉縞が観測され,ブレーズ型に近いリタデーションの勾配が液晶層内に形成されていると推測できた。しかしながら,(b),(c)に示す偏向されたビームは,(a)に示す直進したビームに比較して,散乱の度合いが大きいことも確認できた。この散乱の理由の多くは,前期のリタデーション勾配の理想状態からのずれによるものと考えられるが,これを評価指標として,さらなる検討や改善により,透過した偏向ビームの品質を向上することが,将来のより広い用途への実用化に繋がるものと思われる。

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