大阪公立大学の研究グループは、電気化学発光セル(LEC)の発光強度の変化を磁気共鳴で検出するELDMR法を用いて信号の観測に成功し、その起源が電子正孔対であることを実証した(ニュースリリース)。

有機EL材料にイオン性物質を混ぜ込み、イオン移動によって電極からの電荷注入を助けながら発光させる「電気化学発光セル(LEC)」は、構造が単純で高輝度動作も可能なことから、ポストOLED候補として注目されている。一方でLECでは、電子や正孔などの電荷キャリア輸送と同時にイオン移動が進行し、イオンによる電場遮蔽(シールド効果)が生じる。
これにより素子内部の電場分布は時間とともに変化して複雑化すると考えられるが、従来手法ではこの電場変動を直接追跡することが難しかった。さらに、発光直前に一時的に形成される電子正孔対(e–h対)は、キャリアから励起子へと転換される過程の中間状態であり発光効率を左右する重要因子だが、寿命が短く選択的な検出が困難であった。
この研究では、動作中デバイスの電子スピン遷移(磁気共鳴)に伴う発光強度変化に着目し、光学検出磁気共鳴法の一つであるELDMR法をオペランド条件下でLECに新規適用することで、LEC動作中の内部電場変動の「見える化」を目指した。対象としたポリマー系LECで初めて高感度ELDMR信号の取得に成功し、スペクトル解析などから信号がe–h対の電子スピン共鳴に由来することを実証した。
さらに、印加電圧を往復掃引しながらELDMR信号を評価したところ、掃引方向によって応答が大きく変化するヒステリシスが観測された。これはイオン配向の変化に伴う内部電場変動をe–h対が感受した結果であり、電場に敏感なe–h対をプローブとして用いることで、素子動作下の電場環境の変化を捉えられることを示した。特に電圧を上げた後に戻す逆掃引では、イオンによる電場遮蔽が顕著となり、e–h対が分離されにくい低電場状態が実現されることが分かった。
別途測定したEL発光効率(発光強度/電流)でも、逆掃引時の方が正掃引時より高いことが明らかになり、内部電場制御がLECを含む有機EL素子の新たな設計変数となり得ることが示唆された。低電場環境ではe–h対が安定化して再結合効率が向上し、この傾向はLECに限らず一般のOLEDでも起こり得る。また電場低下により磁気EL効果が増大することも確認され、e–h対が磁気EL効果の起源であることと整合する。加えて、再結合反応が促進される「好適な電場条件」の存在も示された。
この成果は、LECの実動作環境下で内部電場を非破壊かつ選択的に読み取る手法を提示し、「電場と発光効率の因果関係」を直接示した点に意義がある。得られた知見はOLEDなど他のEL素子にも一般化可能であり、高効率化に向けた電場の重要性を示しているという。さらにe–h対のスピン物性に着目し、量子計測技術としての電子スピン計測を用いて発光デバイスの動作機構に迫る先駆的研究として、今後の応用展開が期待されるとしている。



