富山大学の研究グループは,極低電圧で駆動可能なエキサイプレックスアップコンバージョン型有機EL(ExUC-OLED)において,ドナー・アクセプター(D/A)界面にスペーサー層を挿入するという新たなアプローチにより,エネルギー移動効率を自在に制御し,これまで困難とされていた材料の組み合わせでも高効率な発光を実現することに成功した(ニュースリリース)。
有機EL(OLED)は,ディスプレーなどに広く使われる自発光デバイスで,特に青色発光には約4Vもの高電圧が必要であるという課題があった。従来の電圧低減技術では限界がある中,新しい方式「ExUC-OLED(エキサイプレックスとTTUを利用した有機EL)」が注目されている。
これは,ドナー層とアクセプター層の界面で形成されるエキサイプレックスのエネルギーを利用し,青色光を低電圧で発生させるもので,理論的には発光材料のエネルギーギャップよりも低い電圧で動作する。実際に1.47Vで青色発光を達成した例も報告されている。
しかしこの方式では,エネルギー移動効率がD/Aの材料組み合わせに大きく依存し,使える材料が限られるのが課題だった。近年,ドナーとアクセプターがある程度離れていてもエキサイプレックスが形成できることが分かり,その距離によりエネルギーを調整できる可能性が示された。
研究グループは,発光材料としてα,β-ADNを用い,異なるアクセプターHFl-NDIとPTCDI-C8を組み合わせた結果,HFl-NDIデバイスの外部量子効率(EQEblue)は0.40%だったのに対し,PTCDI-C8デバイスは 0.00083%と極めて低い値だった。
PTCDI-C8のデバイスには,界面にBCPというスペーサーを厚さ0~9nmで挿入した。スペーサー3nmで77倍の効率向上が確認され,スペーサーの厚さがエネルギー移動に大きく影響することが示された。
さらに,異なる双極子モーメントを持つ複数のスペーサー材料を用いたところ,双極子モーメントが大きい材料ほど発光効率が高くなる傾向も明らかにした。これにより,ExUC-OLEDの性能向上と材料の自由な選定が可能になる新たな道が開かれた。
研究グループは,この研究成果は,次世代の超低電圧駆動型有機ELデバイスの開発において,材料選択の自由度を飛躍的に高めるものであり,今後の省エネルギー型ディスプレイや照明技術の実用化に向けた大きな一歩となることが期待されるとしている。