京大ら,深赤色から近赤外光で作動する有機触媒反応を開発

京都大学と東和薬品は,深赤色から近赤外光(波長600〜800nm)で作動する有機触媒反応の開発に成功した(ニュースリリース)。

光を利用した化学反応(光触媒反応)は,環境負荷が低く選択的な有機合成法として注目を集めている。しかし,一般的に用いられる青色や緑色光はエネルギーが高く,分子の副反応や分解を引き起こす問題があった。

一方,深赤色から近赤外光はエネルギーが低く,物質透過性が高いため,大規模反応や生体応用に適している。しかし,そのような低エネルギー光を利用できる光触媒系の開発は限られており,とくに有機分子のみで赤外光を吸収して反応を進める例はほとんど報告されていなかった。

研究グループは,触媒と基質が結合して新しい光吸収体を形成するという発想のもと,ホウ素と有機配位子の相互作用によって生じる光吸収の赤方偏移(バソクロミックシフト)に注目した。これを利用することで,有機分子のみで赤色光を利用できる可能性を探った。

研究グループは,有機触媒としてアザジピロメテン(ADP)触媒を設計し,ホウ素化合物と反応させることで,光吸収性を持つボレート複合体を生成させた。この複合体は,波長約690nmに最大吸収を示し,800nmまで吸収が広がることを分光測定で確認した。また,励起状態ではC–B結合が弱まり,赤色光照射により炭素ラジカルを生成することを実験的に明らかにした。

生成した炭素ラジカルは,Giese型付加反応,C–O,C–S結合形成反応,ラジカル–ラジカルカップリング反応,ニッケル触媒との協働触媒クロスカップリング反応のような多様な反応に応用可能。

特に,ベンジルトリフルオロボレートとハロゲン化アリールのニッケル触媒クロスカップリングは,深赤色から近赤外光照射下で,金属錯体光触媒を用いずに実現した初の事例。また,アザジピロメテンの構造を変えることで吸収波長や励起状態の還元電位を制御できることがわかり,異なる反応系への最適化が可能であることも示された。

理論計算(DFT解析)では,HOMOがC–B結合付近に,LUMOが配位子上に分布することが確認され,励起状態でC–B結合が選択的に弱まることを支持した。さらに,サイクルボルタンメトリー(CV)測定から,ボレート複合体の励起状態還元電位が–0.69V(vs SCE)であることを算出し,反応駆動力を定量的に説明した。

研究グループは,この成果は,有機触媒×赤外光という新しい組み合わせを実証したもので,環境調和型有機合成への応用,生体透過光を用いた光制御反応,大規模・工業スケール反応への拡張といった広範な波及効果が期待されるとしている。

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