金沢大学,インド工科大学ハイデラバード校,英ストラスクライド大学は,複数の純金属片を組み合わせた独自の回転ターゲットとパルスレーザー堆積法を用いることで,高価な合金ターゲットを使わずに,さまざまな材料の表面に高性能なハイエントロピー合金薄膜を形成する手法を開発した(ニュースリリース)。
ハイエントロピー合金(HEA)は,5種類以上の元素をほぼ同じ割合で混ぜ合わせて作られる新しい概念の合金。従来の合金の常識を覆す,優れた機械的特性や耐熱性,耐食性を示すことから,世界中で研究が行なわれている。
この特性を,薄膜として利用できれば,より低コストで幅広い応用が可能になるが,多種類の元素を均一に混ぜ合わせた薄膜(ハイエントロピー合金薄膜)を形成するには,高価な合金ターゲットを用意したり,複数のターゲットを同時に制御したりする必要があり,プロセスが複雑で高コストになるという課題があった。
研究グループは,パルスレーザー堆積法(PLD法)に着目し,高価な合金ターゲットを使わない新しい成膜手法を考案した。具体的には,代表的なハイエントロピー合金であるカンター合金を構成する5種類(クロム,マンガン,鉄,コバルト,ニッケル)の純金属の扇形プレートを円盤状に組み合わせた,独自の「回転式マルチターゲット」を設計した。
このターゲットを回転させながらパルスレーザーを照射することで,叩き出された多種類の金属原子が基板に到達し,複雑に混ざり合ったハイエントロピー合金薄膜が形成される。実験では,ガラス,アルミニウム,鉄鋼といったさまざまな種類の基板上に,厚さ数百nmまでの薄膜を形成することに成功した。
さらに,形成された薄膜の断面を詳細に分析した結果、膜は単に基板の表面に堆積するだけでなく,レーザーで加速された原子が基板内部に叩き込まれる「インプランテーション」によって,表面直下に形成されていることが明らかになった。
また,成膜チャンバー内のガス圧力を変えることで,原子の運動エネルギーを制御し,膜が形成される深さや厚さを自在に調整できることも見いだした。
この手法は,基板と一体化した密着性の高い機能性薄膜を,安価かつ簡便に作製できる新たな技術として,今後の材料開発に大きな可能性を拓くもの。基板の種類を選ばず,さまざまな材料表面の改質に応用できるという。
研究グループは,ターゲットに用いる金属の種類や組み合わせを工夫することで,さらに多様な機能を持つオーダーメイドの合金薄膜を創出することも可能だとしている」。




