北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)は,光触媒反応における反応速度を決定づける律速プロセスを,光強度と反応温度を制御するだけで簡便に特定する方法を開発した(ニュースリリース)。
光触媒は,光の吸収,励起キャリアの生成・拡散・表面での酸化還元反応といった複数のプロセスが絡み合うため,どの段階が律速しているかを明確にするのは容易ではなく,効率的な材料改良が進みにくい。
研究グループは,光触媒反応を励起キャリアの表面への供給と表面における酸化還元反応の2つの過程に分け,どちらが律速となっているかを見極めるための簡便な手法を提案した。具体的には,両過程の速度差は,表面における励起キャリアの過不足として現れ,それが光強度と反応温度を変化させた際の温度依存性として抽出される。
これは,表面反応の方が温度変化に敏感であるという既知の性質を活用したもので,ある光強度以上になると温度によって反応速度が変化し始める,しきい値が重要な指標となる。この指標を用いることで,律速過程を明確に記述できると考えた。
実証に際して,代表的な光触媒である酸化チタン(TiO2)と酸化亜鉛(ZnO)を用い,メチレンブルーの分解反応をモデル反応として検証した。反応温度を10˚Cと40˚Cに設定し,光強度を広範囲で制御しながら反応速度を測定した結果,TiO2では高い光強度で温度依存性が現れ,ZnOではより低い光強度から温度依存性が認められ,材料ごとの律速特性の違いを明確に捉えた。
さらに,酸化チタンの焼成温度を変化させた材料シリーズで同様の検討をしたところ,類似した材料においてはオンセット強度に顕著な違いが見られなかったものの,オンセット強度を超える強い光強度条件において性能と温度依存性を比較した結果,ナノサイズ化に伴ってキャリア供給が向上し,温度依存性も大きくなる傾向が確認された。
逆に,高温焼成によって粒子が大きくなった試料ではキャリア供給効率が低下し,温度変化に対する反応の応答も鈍くなったことから,ナノ粒子化による表面へのアクセス性の向上がキャリア供給において重要だと示唆された。
従来のキャリア供給・移動・反応の解析には,特殊装置や複雑な条件設定が必要だったが,今回の研究で提案した手法は,一般的な光源と温度制御だけで実施可能であり,日常的な材料スクリーニングにも応用しやすい。また,光強度の設定範囲が実使用条件に近いため,実際の性能と乖離の少ない律速過程の判定を行なえる。
研究グループは,今回の成果は,光触媒の性能向上や仮説検証の精度向上に加え,高効率な太陽光利用技術の開発にも波及効果が期待されるとしている。