物質・材料研究機構(NIMS)は,レーザー積層造形(金属3Dプリンター)で作製した耐熱鋼のクリープ試験を最長1万時間実施し,積層造形法を用いることで,従来製法材に比べてクリープ寿命を10倍以上延ばせることを明らかにした(ニュースリリース)。
レーザー積層造形は,金属粉末を平らに敷き詰め,その上にレーザーを照射して局所的に溶融・結合させた層を積み重ねることで,任意の形状の部材を作製する技術。
この技術により,従来の加工方法では実現が難しかった複雑な形状の部材が製造可能となり,さまざまな分野で活用が進んでいる。しかし,高温・高圧環境で長時間使用される耐熱材料の安全性を確保するために必要なクリープ(材料が高温で長時間荷重を受け続けると徐々に変形する現象)のデータは,これまで十分に取得されていなかった。
研究では,火力発電プラントなどで広く使用されているフェライト耐熱鋼(改良9Cr-1Mo鋼)の試験片をレーザー積層造形で作製し,650°Cで最長1万時間(約1年2ヶ月)のクリープ試験を実施した。
その結果,積層造形材が従来製法材の10倍以上のクリープ寿命を有することを確認した。650°C-100MPa条件下での破断時間は,従来材が400~800時間であるのに対し,レーザー積層造形材は10,000時間を超えても試験が継続されているという。
レーザー積層造形材は,従来製法材(焼戻しマルテンサイト組織)とは異なり,レーザー積層造形特有の毎秒約100万°Cに達すると見積もられている超急冷凝固により凍結された高温相のδフェライトを母相とするミクロ組織を形成していた。この特異な組織構造が,クリープ寿命向上の主な要因と考えられるという。
研究グループは現在,発電プラントの設計基準で求められる10万時間クリープ破断強度の評価を目指し,1万時間以上の長時間クリープ試験を継続している。今後は,他の耐熱材料の積層造形材についても長時間クリープ試験を実施する予定。
これにより,優れた特性を実現する積層造形技術と長時間クリープ試験技術を活用し,信頼性データが不足している積層造形材の普及と規格化を進めるとしている。