東北大ら,表面弾性波に特殊な回折現象を発見

東北大学,日本原子力研究開発機構,理化学研究所は,表面弾性波が磁性材料で作製した回折格子を通過する際に,これまで光学分野でしか観測されていなかった,非相反回折と呼ばれる特殊な回折現象を生じることを発見した(ニュースリリース)。

規則正しく並んだ物体に波が衝突すると,散乱された波が互いに干渉し,特定の方向に強い波が生じる。この現象は回折と呼ばれ,光,音,電子波など,さまざまな波動に共通する基本的な現象となっている。

通常,回折された波の強度は対称的で,例えば上方と下方の回折波の強度は等しくなる。しかし,特定の条件下ではこの対称性が崩れ,非対称な回折が生じることが知られている。これは非相反回折と呼ばれ,光では知られているが,他の波動で観測された例はなかった。

例えば,物質表面を伝わる音波である表面弾性波においても,このような特異な回折現象が期待されるが,知られていなかった。表面弾性波を使ったデバイスは,例えば携帯電話の周波数フィルターとして使われるなど現代の通信技術を支える重要な要素となっている。したがって,もし非相反回折のような新しい性質を見いだせば,次世代通信技術の進化やデバイス開発につながると期待できる。

今回,研究グループは,磁性体で作製した回折格子を用いて,表面弾性波の非相反回折現象を初めて実証した。一般に音波は縦波や横波のように特定の方向に原子振動しているが,表面弾性波では表面の原子が回転運動し,角運動量を持つという顕著な性質がある。

この角運動量と磁性体が持つ角運動量の間の相互作用を考慮すると,回折波に非対称な振る舞いが生じ得ることが予想された。これを確かめるため,半導体微細加工技術を駆使してナノスケールの磁性体を周期的に配置した格子を作製し,これを通過する表面弾性波を精密に測定した。

すると上方へ回折される表面弾性波と下方へ回折される表面弾性波の強度が明確に異なることが実験的に観測された。さらに表面弾性波と磁性体の相互作用を取り込んだ理論モデルを立てて散乱強度を計算したところ,非相反回折をよく再現できることが分かった。このことは,表面弾性波と磁性体の間の角運動量を介した相互作用が重要であることを示しているという。

研究グループは,この成果を発展させると,磁場によって表面弾性波の曲がる方向を変えられるようになるため,例えば音響スイッチやこれを用いた高性能な表面弾性波フィルターなどへの応用が期待されるとしている。

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