東大,細胞小器官を全体像として見る解析法を開発

著者: admin

東京大学は,多種類の細胞小器官(オルガネラ)の状態を全体像(ランドスケープ)として一目で理解できる新しい方法「オルガネラランドスケープ解析法」を開発した(ニュースリリース)。

従来の方法では,細胞内で密集し常に変化しているオルガネラを同時に多種類区別して解析し,その複雑な全体像を定量に理解することは困難だった。

そこで研究グループは,まず細胞内のオルガネラを個別の粒子状態に分離し,そして多種類のオルガネラ構成分子を蛍光標識し,蛍光イメージングを行なった。これにより,空間分解能を向上させ,同時に多数のパラメーター解析が可能になった。

しかし,得られたデータは各粒子上のそれぞれの蛍光強度からなる多次元のデータであり,このままでは直感的に理解することが困難だった。そこで,UMAPと呼ばれる次元削減技術を用いて二次元空間に投影した。

これにより,複数種類のオルガネラを同時に可視化し,その全体像をランドスケープとして一目で直感的に捉えることに成功した。さらに,この新手法を用いて7種類の主要なオルガネラのランドスケープを解析し,より複雑な現象の可視化も行なった。

小胞体とミトコンドリアの接触部位は,カルシウムイオン依存性の情報伝達経路であるカルシウムシグナリングや脂質代謝など,重要な細胞機能の制御に関与しているが,これらの接触部位は非常に小さく従来の方法で観察することは困難だった。

そこで,特殊な蛍光タンパク質を用いてこれらの接触部位を標識し,他のオルガネラマーカーと同時に新しい解析法で検出することに成功した。これにより,様々な生理的条件下での小胞体ミトコンドリア接触部位の変化を他のオルガネラとの関係も含めて分析できるようになり,関連する疾患メカニズムの解明にも貢献することが期待されるという。

また,細胞が外部から物質を取り込む過程(エンドサイトーシス)には,さまざまなエンドサイトーシス関連オルガネラが関与し,その性質が時間とともに変化する。この研究では,上皮成長因子とトランスフェリンという異なる運命をたどる2種類の積み荷タンパク質の取り込み過程を同時に追跡することで,この手法の汎用性と解像度の高さを実証した。

その結果,トランスフェリンが取り込まれてから細胞外にリサイクルされる過程や,上皮成長因子が取り込まれてからリソソームで分解される過程を,複数のオルガネラとの相互作用を含めて可視化できるようになった。

研究グループは,この解析手法で新たなオルガネラのサブセットの発見や,外部環境,感染,薬剤,疾患がオルガネラに与える影響の評価など,幅広い応用が期待されるとしている。

キーワード:

関連記事

  • 高知大ら,生体に適用可能な細胞膜プローブを開発

    高知大学と愛媛大学は,新しい蛍光性細胞膜プローブ「dSQ12AQ」を開発した(ニュースリリース)。 細胞の形や動きを観察することは,がんの転移や免疫応答,幹細胞の分化などの理解に重要。そのために使われる蛍光イメージングで […]

    2025.08.28
  • 慈恵医大ら,120種のタンパク質を可視化し統合解析

    東京慈恵会医科大学らの研究グループは,1枚の組織切片上から120種類以上のタンパク質を高解像度に可視化し,空間的に統合解析できる世界初の技術「PathoPlex」を開発した(ニュースリリース)。 マルチプレックスイメージ […]

    2025.07.29
  • 岡山大ら,線虫の脂質分布を可視化する新手法を開発

    岡山大学,甲南大学は,線虫(Caenorhabditis elegans)の体内構造を保持したまま連続切片を取得し,脂質分布を三次元的に可視化する質量分析イメージング手法を開発した(ニュースリリース)。 線虫は,発生生物 […]

    2025.07.15
  • 名大ら,生体内で強く発光する低毒性量子ドット開発

    名古屋大学と量子科学技術研究開発機構(QST)は,近赤外光波長領域で強く発光する新規な多元素量子ドットの開発に世界で初めて成功し,生体深部イメージング用発光プローブとして利用できることを実証した(ニュースリリース)。 量 […]

    2025.07.07
  • 熊本大,深層学習で細胞顕微鏡観察のジレンマを克服

    熊本大学の研究グループは,深層学習による顕微鏡画像の画質復元技術を活用して,植物細胞の分裂における初期の細胞板形成過程を可視化し,アクチン繊維の新たな局在パターンを明らかにした(ニュースリリース)。 細胞内の繊細な構造を […]

    2025.05.20
  • 工繊大ら,カーボン量子ドットで細胞内部温度を測定

    京都工芸繊維大学,大阪大学,東京大学,広島大学は,ナノサイズのカーボン量子ドット(CQD)を用いて,細胞内部の温度を高精度に測定する技術を開発した(ニュースリリース)。 細胞内の温度は生命現象に深く関わっており,これまで […]

    2025.03.27
  • 東京科学大ら,細胞の局所環境の温度計測法を開発

    東京科学大ら,細胞の局所環境の温度計測法を開発

    東京科学大学と九州大学は,極性応答により過去に例のない大きな発光波長変化を示すソルバトクロミック蛍光色素を設計し,温度変化による微小な極性環境の差を蛍光で読み取り,高い精度で温度測定が可能な新概念の分子温度計を開発した( […]

    2025.03.27
  • 東大ら,安価で小型な3D観察用光シート顕微鏡を開発

    東京大学,ミユキ技研,日本電気硝子,フォトンテックイノベーションズは,バイオサイエンスや病理等での研究対象である透明化された組織標本の3次元イメージングを,簡単で小型で,解像度は従来の3次元イメージング装置と同等,さらに […]

    2025.01.30
  • オプトキャリア