北海道大学の研究グループは,単量体緑色蛍光タンパク質(eGFP)の蛍光寿命測定を用いて迅速・高感度で高浸透圧ストレス下における細胞内分子クラウディング状態変化測定系の開発に成功した(ニュースリリース)。
高浸透圧ストレスにさらされた細胞内でどのような環境変化が起こっているのかということは長年研究されており,例えば細胞膜のチャネルを介してイオン濃度が変化するなどの応答が高浸透圧ストレス応答現象として知られている。
このとき,細胞内において水分子の急速な減少も起こるため,タンパク質など生体分子の濃度が上昇し,分子クラウディングが上昇すること,また高浸透圧ストレスが数時間程度持続すると,細胞質などにタンパク質や核酸が集積したストレス顆粒という構造体が出現することが知られている。
しかしながら,このような高浸透圧ストレス下において迅速に分子クラウディング状態の変化をリアルタイムに追跡できる計測手法は限定的だった。
研究グループは,高浸透圧ストレス下における分子クラウディング度の上昇を解析するためのプローブとして,単量体の改変型緑色蛍光タンパク質であるeGFPを用いた。さらに分子クラウディング度の上昇によりeGFPの発光が不安定になる現象に着目した。
この発光の不安定さを二次元空間で測定するために,高塩濃度培地に暴露した前後のeGFP発現細胞をリアルタイムに蛍光寿命計測することで,高塩濃度にさらされた細胞内における数秒ごとの蛍光寿命を計測した。
結果,高浸透圧ストレスにさらされた直後は分子クラウディング度が最も上昇するが,100秒以内に非ストレス下よりは高いものの安定状態に達することが分かった。
また,これまでにクラウディング状態の蛍光センサーとして知られていたGimRETでは数百秒以上経過しないと安定に達しなかったが,eGFPの蛍光寿命測定を用いるとGimRETよりもはるかに速い細胞内分子クラウディング変化応答を追跡できることも分かった。また核質では,細胞質よりもわずかに高い分子クラウディング状態となっていることも検出できた。
研究グループは,今後,その他の細胞内小器官における分子クラウディング上昇を解析する重要なセンサーへの応用が考えられるとする。また,応答の速さから,例えば高浸透圧ストレスを短い時間間隔で細胞へ与えた時の分子クラウディング変化の解析などに利用が考えられるとしている。