LA-ICPMSの産業化の可能性 ─生体イメージング分析に注目!

■課題は定量分析
写真1 平田研究室ではサイバーレーザー製のフェムト秒レーザーを用い,ガルバノ光学系によるLA-ICPMSで装置化も視野に研究を行なっている。
写真1 平田研究室ではサイバーレーザー製のフェムト秒レーザーを用い,ガルバノ光学系によるLA-ICPMSで装置化も視野に研究を行なっている。

LA-ICPMSが対象とするのは固体試料だが,課題は定量分析とされている。これは標準物質が限られているからだ。そのため,現状では企業ごとに定められている基準でもって行なわれるケースが多いという。

これに関しては,機関同士の整合性を図る比較試験の取り組みも進められている。実際,レーザーアブレーション分析研究会では,参画する複数の企業を対象に特定の元素について,LA-ICPMSによる比較試験を行なってきた。その結果はJASIS会期初日の9月6日に公開する予定だ。

一方,定量分析の課題を解決する手段として,フェムト秒レーザーを用いる標準添加法が期待されている。一般的な標準添加法は,分析対象となる試料と,それに近い含有物質を持つ標準物質をレーザーアブレーションし,含有元素の濃度を測定するが,標準物質の色や硬さの違いによって,両者のアブレーションの量が変わり,主成分の誤差につながるという問題がある(マトリックス効果と呼ばれている)。

これを解決するものとして,試料と標準物質の二つをレーザーアブレーションによって時間配分を変えて混ぜ合わせ,エアロゾルをイオン化して質量分析計で計測するという手法がある。しかし,これにも課題があり,エアロゾルの組成が変化してしまう。

そこで試料と2種類の含有元素の濃度が異なる標準物質を用い,時間配分を変えてレーザーアブレーションを行なうという手法が提案されている。この手法では,エアロゾルの化学組成を一定にできるという。この手法を,ガルバノ光学系を用いたフェムト秒レーザーで可能にする研究開発を行なっているのは,東京大学・大学院理学系研究科・教授の平田岳史氏だ。

平田氏によれば,ガルバノ光学系を採用した理由について「試料を含む,3つの物質をアブレーションするため,ステージ構造のものでは,ステージが撓む恐れがあるほか,試料が動いてしまう可能性がある。これを解決するため」としている。

また,フェムト秒レーザーを用いる優位性について,一つ目は色や硬さなど異なる試料に対して,ほぼ同じ量をアブレーションすることができること,二つ目は,高繰り返し発振が可能なため,試料を高速に混ぜ合わせることができる点が挙げられる。